2017年12月12日 (火)

雪やコンコン旭川の旅(下)





会社からの特命を滞りなく終えて、今宵は旭川に宿泊となる。
ホテルのフロントの話では、土日は寒波が来て−15℃まで下がるから、良い時に来たということ。
つまり今日は過ごしやすい日という意味だが、都会の軟弱者には、凍れる寒さはすべて同じで、三寒四温のような繊細な肌の感覚が理解できない。
寒さに対する感覚が、根本から違うのである。
きっと3月には少しの温度差で、春の訪れを感じることができるのだろう。





さて特命慰労の晩餐会。
旭川ではラーメンを是非ご賞味くださいと、同僚が口にするのだが、残念ながら私にはラーメン愛はない。
以前に伝説のラーメン屋という名店に、長時間待ち覚悟で並んだが、ようやくカウンターに座るや否や、店主が従業員を怒鳴り散らす場面に遭遇。
さらにスープの最期の一滴まで飲み干してくださいという張り紙を見て、うんざりしてしまったのである。

食事は愉しく食べたいもの。
怒鳴り散らしている所では、自分が怒られているようで、ゆっくりと味わうことさえ気が滅入る。
また自信の表れだろうが、食べ方にまでウンチクを語る店では、その作法通りに食べないと、尻を叩かれそうで、こちらも気が滅入る。





とういう理由からフロントがお勧めの居酒屋へ。
私は北海道に来たら、まず最初に食べたいのは厚岸産の生牡蠣。
肉は艶々と輝いてプルプルとして、たっぷりとしたお汁。レモン汁を絞って、そのまま一気に口に入れる。
醤油をかけるのは邪道である。生牡蠣がその身に受けた潮水が、レモン汁と溶け合って、程よい塩味となる。
舌と頬が喜ぶ。美味し。
牡蠣の産地は、日本各地にあれど厚岸産が一番である。





二軒目はショットバー。
店に流れるのは、70年代のブラックミュージックのみ。草臥れたオヤジには、この上ない極楽浄土である。
ふとミーターズの「People say 」が久しぶりに聴きたいと思った途端、店内にあの独特のリズムが流れ始めた。
偶然なのだろうが、何か啓示を感じる。
特命を成し遂げた私へ、神様からのご褒美なのかとさえ思う。
今宵はそのぐらい思い上がっても、バチは当たらないだろう。

ようやく雪が降り止んだ。
旭川の夜はしんと静まり優しかった。






※残念ながら携帯をホテルに忘れたため、厚岸産の生牡蠣の写真はなし。
旭川は家具で有名な町だけに、駅舎も木をふんだんに使って温もりがあります。


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2017年12月11日 (月)

雪やコンコン旭川の旅(上)







急遽、会社からの特命で、北海道の旭川まで行くことになった。
もちろん深圳と同じく極秘事項だけに、ここでは明かすことはできないが、とにかく早朝の羽田から千歳へと旅立ったのである。
初冬の朝焼けは、空気が澄んでいて美しい。

千歳空港までは約1時間40分。
東京から名古屋ぐらいの時間で着いてしまうのだ。日本は年を追うごとに狭くなっていく。旅情を愉しむことなど、遠い昔の絵空事になってしまった。
ウトウト、ムニャムニャと寝言をつぶやいているうちに到着となる。






着陸前の機内放送では「ただ今、外気の温度は−9°C。東京と気温差がありますので、くれぐれもお身体をお崩しになりませんように」と、艶のある声で伝えてくれる。
12月初めにして−9°Cとは、さすが悠久の大地、北海道である。
顔から霜柱が生える。
産毛に樹氷が林立する。

感心するのと同時に、背広に革靴、それに薄手のジャンパーで北海道に来た自分の無策に、思わず溜飲を下げる。
いくつになっても甘いんですな。
未来予想図などないのですな。




JRのホームに向かうと、電車遅延のお知らせがあり、その理由も北海道ならではの大らかさ。
電車の車輪が凍結したためのこと。
人身事故やら扉に荷物が挟まったためなどという人為的な理由でないので、やり場のない怒りで腹立つこともない。
車輪も縮み上がるような寒さなのである。車輪の気持ちもよく分かる。
ちょっとしたスキで、凍れてしまったのである。




札幌で特急ライラックに乗り換え、一面雪の大地のなかを旭川に向かって驀進する。
車窓は水墨画のよう。
樹々が凍り、きりきりと音をたてる世界。
タロウの上にもジロウの上にも、雪はしんしんと降り積もる。

(つづく)






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2014年2月 4日 (火)

純情こけし東北めぐり旅(6)

 

 

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「こちらが父の作品、これは私のつくったもの。まだ私は絵付けしかできなくで、木地はすべて父が削っているんです」

 

 

梅木工人はこけしづくりに専念して、

まだ1年を少し過ぎたほど。

駆け出しの自分を謙虚に受け止めていて、

説明する言葉の中に、父に対する、

いや師匠である父に対する畏怖にも

似た尊敬の念が感じられる。

 

 

 

原木から木地を削り出し、絵付けを施し、

道具から治具に至るまでのすべてを、

熟練の手でつくりあげる、父の姿に、

立ち振る舞いに、その背中に、

伝統を継いでいる重みを感じるのは当然だろう。

 

 

梅木さんは、こけし工人になる前は

外車の販売会社で働いていたそうである。

伝統と最新。木の肌触りと鋼鉄の輝き。素朴と豪奢。

 

 

まったく異なる世界に転身した梅木工人の決断力に、

今度は私たちが尊敬の念を抱いてしまう。

そしてこけしを愛する者にとっては、

途絶えることなく次の世代に継承された喜びも。

 

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「この模様は重ね菊といって、咲き乱れる菊をイメージした伝統模様。こちらは梅ね。この伝統模様には、それぞれ名前がついているのよ」

「ちゃんと季節を感じるように描かれているんですね。すごいなあ」

「この伝統模様をこけしにではなくて、和紙に描いても面白いの。こけしの顔って穏やかだから、葉書にしたり、色紙にしたりすると、結構喜ばれるのよ」

「わかります、わかります。ありがたい感じがあって、色合いも綺麗だし」

「仏画とは違うからもらう方も困らない」

「私、仏画もらったら、飾るに困っちゃうな」

 

 

 

梅木工人とayumiさんは初対面だというのに、

すぐに打ち解けて、こけし談義に花を咲かせている。

 

 

女同士というのは初めて会った人でも、

すぐに何年来の友人のように接することができる

特別な本能があるに違いないと、昔から思っていた。

 

 

男同士だとそうはいかない。

最初の一言を交わすのに、かなりの時間を要して、

その会話の内容も景気や政治もしくは下半身の話で、

無理矢理に親近感を持たせようとする。

 

 

その会話からもれる枯れ果てた笑いは、

一緒に聞いている者にまで苦さが染み込んでくる。

なにゆえに男は会話が苦手なのか。

私の妄想的結論は、こうである。

 

 

 

原始時代から常に男は、

まず食べ物を探し与えなければならず、

近隣の村落とは戦うか、友好を保たなければならず、

同じ村落の仲間には何を考えているのか

腹の内を探らなければならず、

表向きは大志を抱かねばならず、

奥さんの機嫌を表情だけで見極めなければならず、

とにかく神経症になるぐらいに義務に追われている。

 

 

自分以外の他者というのは、

いつ寝首をかきに襲ってくるのか、

甘い言葉の裏には何があるのだろうかと、

終始怯え怖れおののかなければならない存在。

安易な発言は、相手の敵対心を煽ることになりかねず、

恨みを抱かれる原因になりかねない。

 

 

それゆえに景気や政治もしくは下半身といった

少し本筋を外した内容で、

相手の顔色をうかがうようになってしまった。

なるべく自分の感情を出さないようにと

細心の注意を払いながら。

 

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それに比べて女性は、

自分たちの村落のコミュニティー維持を第一に考えるから、

他愛のない雑談も、ゴシップ的な噂話も、

ダメな旦那の悪口も、子どもを叱りつける言葉まで、

すべて女同士の仲間意識を確認するため、

絆を深めるの手段であり、深い真意もない。

 

 

まず話をすることが必要であって、

それほど中味は重要ではない。

男が理解しがたい雑談も、女性にとって必然なのである。

 

 

それに比べて男性は相手の素性を知ろうと会話をする。

 

 

そんなわけで、二人の楽しげな会話に上手く入れず、

眼を細めて好々爺然と微笑んでいた次第である。

 

 

ああ、余談が長すぎた。

 

(店主YUZO)

 

 

2月 4, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月28日 (火)

純情こけし東北めぐり旅(5)

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本日最後に会うのは、こけしの世界では珍しい女性工人、

梅木直美さんである。

梅木工人に会うのはayumiさんも初めてで、

お菓子を頬張りながら、心なしか車内に緊張が漂う。

ayumiさんは、どんな話をすればすぐに打ち解けられるか、

私はうら若き女性に会うからが理由であるが。

 

 

大概において私は、

どんな女性に美しさを感じるのかと質問された場合、

伝統工芸を継いでいる女性と答えるようにしている。

初対面の相手にはにかむ女性、子供をあやす母親、

スポーツで敗れて涙する女学生といった

一般的に好まれる仕草に、

それほど心を動かされることはない。

というより、なくなったと言うべきだろう。

 

すれっ枯らしの、

酒を飲むことしか楽しみがなくなった男は、

幾度も経験する挫折と諦観の果てに、

ようやく住む人もまばらな寒村に、

真の安らぎを見つけ出したような心境。

 

水に棲むナマズが、

ここも悪くないと思う心境と同じである。

 

その境地はなかなか理解されることはない。

その心持において、

こけしつくりを父親から受け継ぐと決めた

梅木工人の凛とした姿勢は、

絶対的な美しさに満ちているはずである。

緊張しない方がおかしい。

 

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約束の6時半に教えてもらった住所に着いたのだが、

完全なる住宅街で、

見渡しても木材置き場も工房らしきものもない。

時おり通過する車の音が、街中に響く程度で、

しんと静まり返っている。

 

住所を聞き違えたかと思い、

電話をすると、ほんの50m先で手を振る人がいる。

 

妄想癖が特技の私は、

築100年の茅葺き屋根の日本家屋に、

納屋には材木の山、

庭先には放し飼いのニワトリという光景が、

網膜に美しく投影されていたので、

玉手箱を開けても何も起こらない浦島太郎の気分。

 

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また梅木工人も眉間に皺の寄った厳しい風貌は微塵もなく、

笑顔の素敵な良家のお嬢様といった優しい顔立ちである。

 

私は下調べとして梅木工人のブログを拝見していたのだが、

この笑顔と文章から忍ばれる人柄が、きれいに一致する。

 

私の職人の世界=厳格な世界という連想は、

昭和のステレオタイプの典型で、

今は平成、もっと社交的で柔軟さがあるのだろう。

 

「遠いところ、わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

 

お仕着せがましさもなく、

さらりと言うのは東北人の特徴だろうか。

柿澤工人も平賀工人も、そうだった。

その言い方には、すっと心に沁みこんでくる温かさがあり、

一瞬にして会いに来て良かったという気分にさせる。

心が喜んでいるのがわかる。

 

(店主YUZOO)

1月 28, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月21日 (火)

純情こけし東北めぐり旅(4)

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気がつくと陽はとっぷりと暮れ、

店の灯りが、ほんのりと道を黄色く照らしている。

 

ついつい長居をしてしまったようで、

そろそろお暇しようとすると、

店の奥から平賀工人のお母さんが、

コーヒーを淹れたので飲んでいきなさいと言う。

 

ひと目見て、世話好き、話好き、

人が好きとわかる煌々とした笑顔に、

なぜかロシアのお婆ちゃんを思い出す。

 

お婆ちゃんの人に対する包容力。

母親の子どもに対する無限の優しさ。

それが無ければ、この世界は、

とうの昔に滅んでいたにちがいない。

間違いない。

 

 

 

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「お腹が空いているのなら、御握りでも持っていく?」

と何の違和感もなく自然と口にする言葉に、

年のせいだろうか、つい目頭が熱くなる。

 

「遠くから来ていただいたのに、何もなくてねぇ」

とこの言葉も何ら作為もない滑らかな自然体。

 

今晩は、早々に仕事を切り上げて、

作並温泉に一宿もうけようか。

平賀こけしの150年におよぶ歴史に傾けながら、

郷土料理や地酒に舌鼓を打つことができたら、

どんな至福の時を過ごせるのだろう。

 

ふと脳裏をよぎったのだが、こちらはお金も、

心のゆとりさえないもない貧乏旅行。

さらに山形市まで足を延ばさなければならない。

 

「これから山形市まで行くの?」

平賀親子は飽きれたような顔で私たちを見つめたが、

すぐに「道中お腹が空くだろうから食べてね」と、

たくさんのお菓子を手渡される。

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本当に申し訳ない。

すべては心に巣をつくっている貧乏性のせい。

ゆとり教育を受けていない者の根底にある

パブロフの犬的条件反射。

高度成長期の詰め込み教育のせいで、

時間一杯に仕事を入れないと落ち着かない哀しき性。

 

心のなかで、深く詫びながら、

柿澤工人宅同様に後ろ髪をひかれる思いで、

作並を後にした。

 

 

 

 

 

※話が弾んでしまい写真を撮るのを忘れてしまいました。

 

平賀こけし店のHPより拝借しました。

 

 

(店主YUZOO)

 

 

 

1月 21, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月17日 (金)

純情こけし東北めぐり旅(3)

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気がつくと、既に12時をまわっている。

工房で流れる時と時計が刻む時は違うようだ。

次回、訪問する際は鳴子温泉で

一泊するぐらいの心の余裕がほしいと、

後ろ髪を引かれる思いで柿澤宅をあとにする。

 

次の訪問先は作並温泉の平賀輝幸さん。

平賀家は作並系こけしを代表する家系で、

輝幸さんはその8代目。150年続く名門の工房である。

ayumiさんの話によると、

平賀工人は何か悟りを開いたのではと

思うぐらい優しさと慈愛に満ちた人柄らしい。

 

天才肌の次は聖人である。

俗物かつ貧乏性の私には、実にハードルが高い。

晩秋の東北路のなかを走り抜けると、

四方を山々に囲まれた作並温泉郷の外れに、

一軒ぽつりと、こけしの絵を掲げた店があった。

 

!!!!!

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つげ義春が描く世界に迷い込んだような鄙びた佇まい。

喧、躍、騒、動、音がまったくない静寂の世界である。

煌々と輝く蛍光灯の下、たくさんのこけしが、

夕暮れに染まる店の外を見つめている。

つまり訪問客である私たちを、

切れ長の眼で見つめているのである。

こけしたちのざわめきに気がついたのか、

作業をしていた平賀工人は手を休め、私たちに一瞥する。

 

「こんにちは。綺麗なお店ですね」

 

「遠いところ、よく来てくださいました。今年、内装工事したからね。以前は、ちょっとひどかったから」

 

柿澤工人同様、

いっさいの自慢や見栄はなく、さらりと応える。

虚栄心が芽生えた途端に、

己の身に災いが起こるにちがいないと

怖れているかのようである。

 

こけし工人は則天去私に真の道があるのだろうか。

 

「工事をしたら謙次郎(平賀こけし6代目)のこけしが段ボールいっばいに出てきてね。持っているのもナンだから、とりあえず並べといた」

 

とアンティークこけし蒐集家には垂涎もの逸品が

無造作に並べられている。

しかも驚くほどの安価で。ものには執着しないというより、

それらの逸品を喜んで買い求めるお客の笑顔を見るのが、

一番の幸せと感じているようである。

 

やはり聖人である。

 

ちなみに謙次郎工人は、晩年まで木を削り、絵を描いき、

木に魂を宿らせるという作業を一貫してやり続け、

こけし作りに精進していたそうである。

平賀工人の話からも謙次郎工人の生き方を

理想としているのが、言葉の端々に感じる。

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「ところで、店の扉はいつも開けっぱなしなんですか?

 

と少し不躾な質問をすると、平賀工人は笑いながら応える。

 

「この時期、外は寒いからね。店のなかは温かいから、虫が暖をとりに入ってくるんだよね。カメムシはうちで冬を過ごすのが好きみたい。毎年、段ボールやサッシの隙間で、春が来るのを待っているよ」

 

「だから、この荷物にカメムシがいたんだ!

 

ayumiさんが思い出したように声を発した。

 

「やはり入っていたんだ。確認したんだけどね。ゴメン、ゴメン」

 

と朗らかに笑う。

 

虫も木も人も一緒。

冬が来れば誰もが寒いし、暖がほしい。

信仰も学問も経済も主義をも超えた、究極の真理である。

 

聖人は広く、深く、果てしなく、温かい。

ここでも時計が刻む時間とはちがう時が流れている。

 

(店主YUZOO)

 

1月 17, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月12日 (日)

純情こけし東北めぐり旅(2)

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鳴子温泉駅を過ぎて小高い丘を登りきったあたりに、

柿澤さんの店舗を兼ねた家が見える。

質素な佇まいは、

地元にしっかりと根付いた生活を感じる。

 

私たちが到着したことに気が付くと

柿澤さんは母屋から出てきてくれた。

「遠いところ、ご苦労さんです。それと覆面マスクありがとね」

近所の親しいお兄さん風な話ぶりは、

着飾らない性格というのか、

私の思う天才肌のイメージではない。

 

 

というか、第一声が覆面マスクへの

感謝の言葉のほうが気になる。

東北プロレス巡業の話だろうか。

もしくは新作こけしの話だろうか。

 

その後もayumiさんと柿澤さんの

覆面マスクについての話は続き、

柿澤さんの息子がマスクに興奮していたこと、

初めてつくったマスクの裏話など、

話題は蚊帳の外であるが、

1年ぶりに里帰りしたようで心が和む。

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ふと棚に並んだこけしに目を向けると、

伝統こけしが凛とした姿勢で並び、

その横には毛糸帽や麦わら帽子をかぶった可愛らしい

少女こけしが澄ました顔でこちらを見ている。

その愛くるしさに思わず私からも微笑みを返してしまう。

 

 

「このこけし、可愛いですね」

と話を向けると、

「これ、つくるのが面倒で、数多くはできないんだなあ」

と飄々と柿澤さんは応える。

自分の作品について多くを語らないところが、

天才肌の工人たる由縁かもしれない。

 

 

その後、柿澤さんのお母さんが淹れたお茶と

自家製のお新香をお茶うけに、悠々とした会話が続く。

小春日和の縁側にいるようだ。

さらさらと時間が流れていくのがわかる。

 

 

「ロシアで見たマトリョーシカの木地師の仕事は凄かったなあ」

「柿澤さん、ロシアに行かれたことあるんですか?」

「県の産業振興会で。面白そうだったから、申し込んだんだけど、誰も知り合いがいないし、空港の集合場所も聞くのを忘れてね。たいへんだった」

細かいことにこだわらない大らかな性格が

アダになったことを思い出したようで、

バツ悪そうに笑った。

 

 

その旅行で柿澤さんは、

セミョーノフの工場見学に行った際、

熟練の木地師が寸法も測らず、経験と勘だけで、

あっという間に入れ子をつくる完成させる様子に、

度肝を抜かれたぐらいに感動したそうである。

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「誰も興味ないんだもんなあ。すぐに懇親会場に移動だもん。ずっと見ていたかったのに」

「ぼくもセルギエフ・パッサードで見たときに衝撃を受けました。あれは神業ですよ」

「そうそう、神業ね」

「そうです。神業です」

 

とその後、ふたりはロシアの木地師の匠の技を思い出して、

ひとりごちに耽っている。また時間がさらさらと流れ出す。

心地良い時間である。

 

 

 

この悠久とした時間の流れに抱かれているからこそ、

あの純粋無垢な少女こけしが生まれてくるのだろうと、

ふと思う。

都会では、まず生まれることはない。

なぜかそれだけは確信があった。

 

(店主YUZOO)

1月 12, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月 9日 (木)

純情こけし東北めぐり旅(1)

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早いもので21世紀になって、

すでに14年の年月が流れている。

 

ついこの間、

蛇の年賀状の図案で頭を悩ましていたと思ったら、

もう馬について考えなければならない。

この調子だと一年中、

干支について思いを巡らしていないと、

正月の挨拶さえ覚束なくなるにちがいない。

困ったものである。

 

「木の香」で恒例の新春行事である、

東北こけし展の打ち合わせに、

山形、宮城、福島をまわったのは、いつだっただろうと

手帳を見返したら、

もう3か月前の出来事になっている。

  

その旅の途中で私は、

こけしの工人さんの人柄や作業場の雰囲気を紹介して、

少しでも東北の生活を身近に感じてもらいたいと

強く心に抱いていたのに、この体たらく。

  

穴があったら入りたい心境だが、

寝正月にゆえに身体を動かすのも一苦労。

炬燵を終の棲家と、開き直る以外、術はないのである。

  

10月初旬、稲刈りが終わり、稲穂が束ねられ、

東北の山々は広葉樹が色づき始めた頃である。

鮮やかな赤や黄色の葉は、遠く山頂付近に見えている。

  

実を言うと、こけし工人さんの工房やお店を巡るのは、

私自身は初めてで、期待で胸が躍る反面、

商売っ気が出てしまい空回りするのではないか

という不安もあった。

  

伝統こけしについては、

マトリョーシカほどの知識は持ち合わせていない。

  

目の前に一体のこけしを差し出されても、

それが東北こけし11系統のどれに属するのかさえ、

判断がつきかねるのである。

  

職人気質の工人さんに

「そんなことも判らないで、よくこけしを取り扱いたいと言えるものだね」

と言われても、何ひとつ言い返すことができない。

好きな蜂蜜を食べているうちに

壺から頭が抜けなくなった熊と同じである。

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同行するのはこの「東北こけし展」に

1回から主催と運営をしているスタッフのayumiさん。

彼女が培ってきた人間関係を、

ただひとつ拠り所として、

この旅を巡らなければならないのである。

  

仙台から鳴子温泉へ。鳴子町では、

こけしの大きなオブジェがお出迎え。

その後、駅前の小さな通りを過ぎる間も、

様々なこけしのオブジェを目にし、否が応でも、

こけしの国に入国した気分になる。

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鳴子では柿澤是伸さんに会う予定。

ayumi さんの話によると、

柿澤さんは無口だが、こけし制作には

湯水のごとくアイデアが頭に浮かんでくるような人。

いわゆる天才肌の人らしい。

  

私の周りは、類は友を呼ぶという格言どおりで、

日々の生活に追われ、夢も希望もなく、

心の安らぎと称して酒を飲みだすと、

堰をきったかのように饒舌になる人ばかり。

私を含めて、天才肌には程遠い。

  

果たして天才と俗物で会話が成り立つのだろうか。

  

(店主YUZOO)

1月 9, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2012年9月18日 (火)

ロシアより帰国しました!!

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ロシアより帰国しました。

さすがに格安だったとはいえ、ベトナム経由では、

草臥れたおっさんの身体には、かなり堪えました。

 

寒い国から暑い国へ。

そして残暑のきつい国へと続く旅は、

時差と温度差が目まぐるしく、

先までTシャツ一枚でへらへらと過ごしていたのに、

入国と同時に着膨れたエスキモー風情に。

そして帰国時は、スーツケースのなかに

ひとつでもマトリョーシカを持ち帰りたい逸る気持ちゆえ、

無理して重ね着、さらに重ね着。

30度を越す日本の残暑を心底呪ったのだよ。

 

とうわけで今回の仕入れは、血と汗のにじんだ物語。

グジェリの工場に行ったり、スズダリ、ウラジミールを訪ねたり、

新たに5人のマトリョーシカ作家に出会ったり、

本田選手の記事を書くライターに会ったり、

鉄道に乗って旅したり、ロシア語の比較級を話したりと、

エピソード盛りだくさんの日々が続いたのだね。

 

次回より順を追って、

ロシア仕入れの真実をお話したいと思います。

ローマは1日して成らないかもしれないが、

モスクワだって負けてはいないからね。

 

お楽しみに。

(店主YUZO)

 

9月 18, 2012 国内仕入れ | | コメント (0)