赤羽昼吞み・雑考
ハーフマラソンで良い汗をかいたあとは、昼吞みの聖地、赤羽一番街を探索。
「まるます家」、「丸健水産」、「いこい」といった人気店は、すでに常連客や同じ志を抱いたランナーで埋まっている。
私のタイムがあと10分早ければ、いずれかの席を確保できたかと思うが、逆さにふっても席はない。
零れたミルクを嘆いても仕方がないと、中学英語で覚えた諺を諳んじてみる。
赤羽一番街でもDグループなのだと言い聞かせて、とにかく空いている店を探す。
どこを見ても満席。足元を見ると鮮やかな色彩のランニングシューズ、嬉々とした貌でビールジョッキを手にして喉を鳴らすスポーツウェアばかり。
赤羽ハーフマラソンは地域経済活性化に、多大なる貢献をしているのではあるまいか。
昭和30年代は高度成長期を支えた労働者の胃袋を満たし、現在は昭和を懐かしむベテラン吞酒家と昭和スタイルの酒場が斬新に映る若い男女によって繁栄している。
そして今日は、ランナーたちが力走したあとの一杯を、パイプ椅子や止まり木に腰を下ろして、饒舌にレースを語る。
昼を理由に後ろめたい気分にもなることもない。
吞兵衛の聖地赤羽ならではの懐の深さであろう。泥酔と管さえ巻かなければ、優しく迎え入れてくれる。
赤羽が早朝から呑み屋がオープンしているのは、日本が活力に満ち溢れていた時代、この辺りは二交代勤務の会社が多く、夜勤明けの労働者が食事とその日の自分への慰労を込めて、朝のイッパイを愉しんでいたのがルーツだと言われている。
よくよく目を凝らして脂で煤けた壁を見ると、「ハシゴ酒お断り」、「お酒は三杯まで」といった貼り紙がある。
だから千円札を1枚カウンターに置いて、長尻はせず、数点のツマミとお銚子を一本というのが赤羽の流儀。
千ベロというのは、千円でベロベロに酔えるという意味よりも、そのくらいのお金でやんわりと酔って家路に着きなさいというのが本来の解釈で、一度を呑み始めたら安さに乗じて、椅子に根を生やしてしまうような不粋な呑み方は受け付けない、労働貴族が集う町なのである。
今回、片っ端から暖簾をくぐって、ひと席空いていたのが、下町に何店か展開している「紅トン」。
赤羽ならではの店ではないが、ホルモン焼き好きにとっては、浅草橋の「西口やきとん」にも通じるクォリティで、チェーン店といっても、どの店も外れはない。
私が思う良い店とは、焼きトンを絶妙な柔らかさを残して焼いていること、ポテトサラダが上手いこと、ホッピーがあることの3点に尽きる。
とくに焼き物は看板を掲げているだけに、焼き過ぎで、炭化して硬くなった肉を出す店は、勘弁被りたい。
豚肉だから中まで火を通さないといけないと思う気持ちはわかるが、新鮮な肉を仕入れることに尽力し、ジューシーさを残したまま焼く技術を身に着けることは、焼き師の最低条件である。
それと原価意識が強いあまり、小豆大の肉が串にからまっているようなケチ臭いのが出てくると、もうこの店の暖簾をくぐることはないだろうと、腹をくくってしまう。
ごろりとした肉がついた串を提供するのが店に、自然と呑兵衛たちの足は向く。
ポテトサラダは業務系のスーパーマーケットの徳用サイズを、皿に盛って出しているようでは駄目である。
もつ煮込みは店内でつくる店は多いけれども、ポテトサラダまで手が回らないのが実情ではなかろうか。
しかしポテトサラダは懐かしい母の味であり、胃袋の記憶である。
最後に下町でホルモン焼き屋を名乗るのならば、ホッピーがメニューにあるのは当然のこと。
最近は最初から割ったものを提供する店も見受けられるが、こちらも論外。
呑兵衛はその日の気分に合わせて、自分なりの濃さに割って、ナカとソトを注文するのである。
酔い痴れたいときは、1本のソトに対して、ナカを4から5回頼めば、リーズナブルに酒の川に飛び込むことができる。
さぁ、赤羽ハーフマラソンの完走祝賀会を始めようか。
赤羽スタイルを守り千円程度で、さらりと切り上げることができるか、心許ないが。
まずはビールで乾杯。
(店主YUZOO)
2月 21, 2020 店主のつぶやき | Permalink
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