山形まるごと探訪記〜黒沢温泉〜
マラソン大会が終われば、愉しみは食である。
最初の一杯、自分へのご褒美はどこでいただくかが重要になるのだが、何と言っても、ここは食の宝庫山形県である。
缶ビールで軽く済ますわけにもいかない。
しかも自主的に糖質制限を行なっている以上、その大切な一杯を安易にできない。
そんな私の切ない悩みを考慮してか、S君は山形市近郊にある穴場黒沢温泉に、手際よく手配を済ませていた。
温泉でマラソンの疲れを癒してから、夜の山形に繰り出そうという段取りである。
学生時代はお互いに、他人に気遣いするようなきめ細かな性格ではなかったが、社会の荒波に揉まれて、凹んで、削られてウン十年。
すっかり角はとれて丸くなり、おもてなしの心を育むまでに至った。
成長というより進化である。
今回お世話になる温泉宿は、通常は日帰りのお客様は遠慮を願っている格式高い老舗宿と聞き、スーパー銭湯に慣れきった私は一瞬足がすくんだが、S君と長年友人であるオーナーの特別の計らいで、到着するなり早々、大浴場へと案内される。
訊くとオーナーもマラソン愛好者で、走った後に温泉とビールを欲する気持ちは、痛いほどわかるという。
今回のコースの難所やポイントなどを取り交わすところも、マラソン愛好者ならではの会話。
黒沢温泉は、透明な水質で、まったく硫黄臭がしない、弱アルカリ性の泉質。
ありがたいことに、筋肉痛や打ち身などに効き、成人病にも効果があるという。
マラソンの疲れと日頃の不摂生な生活の両方に効く、私のためにあるような身体に優しい温泉である。
長湯してものぼせることのない温度に設定されていて、湯舟のなかで、本日頑張ったヒラメ筋とハムストリングを、十分にマッサージできて実に快適。
極楽と浄土。天空と宇宙。
鼻唄のひとつでも出てしまう。
湯上り後は、保湿性に優れているのか、脱衣所で涼んでいても、じんわりと汗が滲み出てくる。
冬場に乾燥肌に悩む人にも、効果があるのではないかと思う。
ぜひ山形を訪れれた際は、黒沢温泉にお立ち寄りを。
そして私を待ち受けていたのは、キンと冷えた生ビール。
喉元を豪快に鳴らして、一気に五臓六腑に流し込むと、乾燥していた身体が、砂地化した土地に水が流れ込むように、一瞬にして潤いが戻ってくる。
「美味い!」
思わず唸ってしまう。
「仕事おわりのビールよりも、スポーツ後のほうが、数万倍は美味い!人類が発明した飲み物で、一番はビールではなかろうか?」
S君もご満悦の私をみて、満足そうである。
もてなしの心が自然に根付いてきた。
身体も心もリフレッシュ。
食への戦闘準備が整ったところで、いざ鎌倉へ。もとい山形へ。
今宵は郷土料理と名産、銘酒に闘いを挑むつもりである。
今宵は長い。
勝ってカブトの緒を締めるとしよう。
(店主YUZOO )
11月 5, 2019 店主のつぶやき | Permalink
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