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2019年10月24日 (木)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン(下)〜

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大会の名が表すとおり、山形県の名所旧跡を巡るコースになっていて、完走すれば、ひと通り山形の良い所を目にできる。

4キロほど進むと、最上家の居城だった山形城跡を抜け、新幹線の跨線橋を駆けあがる。

山形城跡は、現在は霞城公園として整備されていて、雨上がりの爽やかな風が心地よい。

道幅も広くて、傾斜もないので、マラソンには理想的な公園。

私の家の近くにも、こんな公園があればと羨ましく思う。

 

 

さらに進むと、山形市の目抜き通りである七日町へ。

あの有名な花笠祭りのパレードも、この通りで開催されるそうで、声援を送る人の多さもさることながら、私設の給水所が軒を連ねて、ランナーをもてなしてくれる。

水、スポーツドリンクはもちろんのこと、シャインマスカット、和菓子、一口饅頭、山形銘菓ののし梅まであり、朝市のような活気。

一瞬、マラソン大会に出場していることを忘れ、グルメ・スタンプラリーに参加しているのではと勘違いするほど。

 

 

ただ今日はマラソンだけに集中。

食欲に負けて戦闘意欲を失いそうなので、泣く泣く、道の左側へとコースを変えた。

朝バナナの力を信じるしかない。

ただ正面だけを見て走ることにする。

 

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正面は大正5年に建てられた旧県庁舎および県会議事堂で、レンガ造りを基調とした、東京駅に通じるような厳かな佇まい。

国の重要文化財に指定されている。

この時代の建造物は風格があるから、つい見惚れてしまう。

一礼をして先へと急ぐ。

 

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コースは七日町を抜けたものの、沿道の声援が減ることなく、10キロを超えて、いくぶん足の回転が遅くなった私に、絶え間ないパワーを授けてくれる。

そしてS君がレース前に教えてくれた、このコース最大の難関、通称芋煮坂へと出る。

この芋煮坂、急勾配ではないが、2.5キロほどダラダラと続く坂で、順調にタイムを刻んできたランナーは、その長さにいつの間にか闘争心を砕かれ、最終的に平凡な記録に終わってしまうと言う、生活習慣病なような魔の坂。

 

 

S君の言うとおり、1キロほど駆け上がると、ちらほら歩き出したり、立ち止まったり、屈伸したりと、芋煮坂に呑まれたランナーたちを、目にするようになる。

ただ前月の「山梨巨峰の丘マラソン」の激坂の経験が生きたのか、キツさは微塵も感じられず、平坦地に思えるほど。

あれほど苦手だった坂が、ある日を境に楽勝と思えるとは、北極でカンガルーに出会ったような驚きである。

 

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坂の折り返し地点14キロで時計を見ると、1時間19分。

残りをキロ540秒ぐらいのペースで走れば、2時間切りも夢ではない。

そう思った瞬間、私のなかで何かが弾け飛んだ。

今まで自分が体験したことのないスピードで芋煮坂を駆け下りていく。

前を走るランナーは、私の殺気とも思えるエネルギーの放射を背中に感じたのか、慌てて右側へと避けてくれる。

まるで緊急車輌である。

 

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そのままペースが落ちることなく、1時間55分でゴールイン。

発行してもらった記録証にも、1時間55分。

疲労が慢性化しているオヤジの身体に起こった奇跡である。蜃気楼である。幻覚である。

もしかしたら、明日の朝、ホテルのベッドで笑顔のまま、あちらの世界に旅立っているかもしれない。

いや、もうあちらの世界への旅の途中かもしれぬ。

何が良かったのか。

とにかく気持ちの整理がつかない。

 

 

朝バナナか。山梨巨峰の丘マラソンか。高速バスの遅延か。夕べ食べた孫悟空の水餃子か。

大会でランナーに振舞われる芋煮さえも、心なしか、ほかのランナーより芋が多く入っているように思える。

山形が私を中心に回っている!

 

 

私の身の回りに起こる事象に動揺して、心を落ち着かせるためにベンチに座っていると、S君が清々しい顔で戻ってきた。

2時間39分。

まるで制限時間ギリギリにセットしたように好タイム。

学生時代から有言実行を信条としていた男だけある。

 

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今宵は山形の酒と肴を満喫できそうである。

闘争心が折れることなく走り切ることができたのは、山形の人々の熱い声援のおかげだろう。

あの声援があったからこそ、錆びついたオヤジの身体に火がつき、新車のように華麗に走ることができた。

 

感謝の上に、また感謝。

山形に足を向けて眠れる訳がない。

 

(店主YUZOO )

 

 

 

 

 

10月 24, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年10月18日 (金)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン(中)

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マラソン当日。

天気予報どおり、雨が降っている。

降水確率も60%と出ているから、今日は雨の中を走ることを覚悟しなければならない。

思い返すと、過去に出場した大会は、天気に恵まれるどころか、季節外れの暑さに見舞われるほどの好天ばかりで、類稀なる晴れ男の才能が備わっていると信じて疑わなかったが、本日をもってその神通力は消えたようである。

 

今回、一緒に走るのは山形出身の後輩S君。

 

ゴールデンウィークに久しぶりに集まった際、中年ならでは会話、健康診断の数値の悪さ、体力の衰え自慢に話が咲き、それ故にマラソンを始めたんだと私が懺悔をすると、S君も実は10年ほど前から、マラソン大会に出場していると言う。

 

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私からみれば、ベテランの域に達していると一瞬尊敬の眼差しで見つめたのだが、戦歴を訊くとたいしたことはない。

関門でのタイムオーバーで断念したこと数知れず。

ほとんどが制限時間ギリギリでゴールインしている、綱渡り的な記録しか持ち合わせていない。

山形まるごとマラソン出場も5回目となり、コースの特長を熟知しているものの、その経験を生かしきれていない強者である。

参加することに意義があるという言葉が、痛いほどよく似合う。

 

トイレ。ストレッチ。ウォーミングアップ。

イメージトレーニング。またトイレ。

スタート時間が近づくにつれ、否が応でも気持ちが高まってくる。

すると雨雲の切れ間から光が射し込んできた。雨は小雨に変わった。

晴れ男の才能が再び開花したのだろうか。

気温も15度とマラソン日和。

この好条件ならば、目標の2時間切りを狙わなくても、せめて謙虚に自己ベストを目指したい。

待ってろよ。心の故郷ヤマガタ。

 

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9時5分、合図とともに各ランナーが、一斉にスタート。

私のいる最後方のDゾーンは、スタート地点に辿り着くまで、老若男女が入り乱れ、芋を煮ているような混雑。

前のランナーの足を踏まぬように細心の注意を払っているうちに、2分ほどロスしてしまう。

 

しかし、そのことでは動揺しないのが、オヤジランナーの太々しいところで、箱根駅伝で謳われている「1秒を削りとれ」という熱い意気込みはない。

最大の目標は時間内に完走できるか、次に途中で歩くことなく走り通せたか、最後に自己ベストを更新できたかなのである。

初めから入賞にからむことないので、タイムロスが気になるわけもなく、あくまでもネットタイムを注視である。

 

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スタートから3キロぐらいまではランナーが多く、自分のペースで走れなかったが、徐々に団子状態がばらけ始めて、足の運びもリズミカルに、呼吸も乱れることはなくなった。

練習を含めて、今までで、一番調子が良い。

長年辛酸を舐め続けてきた人生だけに、どんな大ドンデン返しが待ち受けているのかと、一瞬不安になるほど。

この調子は本来の自分ではないと、何度も言い聞かせる。

 

まだレースは始まったばかり。

道半ばにも達していない。

 

人生に喩えるならば、青春真っ只中。

 

(店主YUZOO )

10月 18, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年10月15日 (火)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン〜(上)

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スポーツの秋。

マラソンの季節到来ということで、55才からからのアスリート宣言をしたばかりに、先月に引き続き、肉体的な衰えも忘れて、1ヶ月も経たずに出場である。

今回の舞台は、心の故郷と呼んでも差し支えない山形県で開催された「山形まるごとマラソン」。

こけし買付ではお世話になっているだけに、まったく未知の土地というわけではない。

むしろ故郷に錦を飾りに来た気分で、この大会のメインであるハーフマラソンの部にエントリーしたのである。

 

こう書くと、眩しいほどの充実した人生を送ってるように思えるが、現実の私はちがう。

前世はオオサンショウウオだったと確信するほど、日頃は怠惰な休日を過ごしていて、布団の隙間から空を眺めては、雨が降りそうだの、風が強いだのと呟いては、練習から逃れようとしている。

ただ極度の貧乏性ときているから、途中で棄権したら参加料がもったいないと思い直して、湿った布団から這い出して、渋々ウェアに着替えているのが本音。

 

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練習もエントリーしたことを後悔しては、散歩中の犬に吠えられながら、公園の周りを息を荒げて走っている。

みなさんに忠告するが、安易に55才からのアスリートなどと宣言すべきではない。

あの時は、なにかに憑かれていたのか、毎月大会に参加して、その度に記録更新して、来年には市民ランナーの憧れ、サブフォーを達成するのだと、独りごちになっていた。

 

だがこの半年、いやいやながら練習を重ねたものの、目を瞠るようなタイムが出たわけでもなく、体力維持が精一杯だった現実。

中年オヤジには、もうアスリートなどという輝かしい言葉で祝福されることはない。

 

しかし山形に向かう高速バスで、その自己陶酔の悪癖が、またもや頭角を現し、この大会の目標である2時間切りは間違いなし、ゴールしたときの決めポーズはどうしようと夢想していた。

クレイジーケンバンドの「♫やれば出来るよ〜、出来るよやれば〜」と口ずさみながら、ゴールは右脚か左脚かで悩んでいたくらいである。

根拠のない自信に満ちた人間ほど、始末に負えないものはない。

 

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7時間ほどバスに揺られ、山形駅に到着すると、陽が傾き、すこし肌寒い。

晩秋の気配である。

空を見上げると、数千羽の椋鳥の大群が乱舞し、喧しく鳴いているのが、都会では見られない異様な光景で、それ以外は人影も最後の練習をするランナーもなく、至って静かである。

 

明日、マラソン大会が開催される祝祭ムードはない。

気持ちだけは神奈川県の招待選手と意気込んでいただけに、この荒涼とした雰囲気は、すこし腰砕けである。

この熱い気持ちを鼓舞するものが欲しい。

 

そこでマラソンに最適に食べ物はバナナであると、ふと雑誌に載っていたのを思い出し、ホテル近くのスーパーで2本買った。

蝋細工のような美しい黄色いバナナである。

まだ熟すには程遠い。

この初々しさ。清々しいさ。

明日を暗示しているようにさえ思えてならない。

本当に明日、私は走るのだろうか。

 

(店主YUZOO )

 

 

10月 15, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)