草臥れオヤジの疾走記〜巨峰の丘マラソン(前編)
夏の酷暑にも翳りがみえ、いよいよマラソン・シーズンの到来である。
「55才からのアスリート」と銘打って、今年から始めた練習の成果を試すときがやってきた。
人はいくつになっても進化するということを、身をもって表したいところである。
メタボ、慢性疲労、気力減退、加齢臭、薄毛、成人病予備群の同期に、まだまだ塩辛い年齢になっても、準備さえ怠らなければ、あの頃のような躍動感が戻ってくるのだと、証明したいのである。
青春というには無理があるが、老兵と呼ぶにはまだ若い。
そんな並々ならぬ決意を胸に、山梨市で開催される「巨峰の丘マラソン」に出場することになったのである。
この大会、巨峰の丘という名の通り、陽当たりの良い葡萄畑の中を駆け抜けるのだが、高低差が530メートルほどあり、坂道が多い中級者向けのコース。
つまり高尾山ほどの小山を往復するのをイメージすれば良いだろうか。
大会ホームページには、天候が良ければ、アルプスの山々と遠くには富士山を臨めるという、ランナーは眼も愉しめるコースと謳われている。
坂道は得意ではないが、アスリート宣言した以上、苦手は克服しなければならない。
そんな微かな闘志を抱きながら、当日まで地元、風車公園の急坂を黙々と往復したのである。
9月15日当日。
始発電車を乗り継いで、中央本線山梨市駅まで向かう。
車を使わなかったのは、三連休なので時間が読みにくいのと、完走後のご褒美である生ビールに直ぐにありつきたいからである。
人生の酸いも甘いも熟知した、オヤジならではの好判断と言えよう。
若僧には考えつくまい。
天気は雲ひとつない青空。
駅に着くなり、しっとりと汗ばむほど。
一瞬、嫌な予感が脳裏をよぎる。
山梨は盆地である。
フェーン現象で、熱気は底にたまり、風は山の上を渡っていくだけなので、気温は陽に照らされて上昇するのみ。
7時の時点で、すでに30℃近くある。
この予感が単なる思い過ごしでなければよいが。
送迎バスに揺られ、山の中腹にある会場へ。
すでに会場には多くのランナーが待機していて、ストレッチをしたり、軽いウォーミングアップをして、開始時間を今かと待っている。
大会本部に設けられたテントでは、摘みたての巨峰が振る舞われており、そちらにも多くのランナーが、口に頬ばりながら、初秋の味覚を愉しんでいる。
闘争心で咽せ返るような雰囲気がないのも、地方大会ならでは。
参加賞も巨峰が一房とミネラルウオーターなのだから、この大会のやんわりとした空気が窺い知れよう。
9時40分号砲。
20キロコースにエントリーしたランナーたちが、自ら拍手してスタートとする。
ランナーの数は千人にも満たないだろうか。
スタート時によくある混雑や密集感もなく、割と早く自分のペースで走れる距離感が確保できたので、まずはひと安心。
私のような初心者ランナーは自力が乏しいゆえ、周りに呑み込まれてオーバーペースになったり、気合いが入るあまり、無理に他人より前に出ようとして、無駄に力を使い果たしてしまう。
実社会では、ライバル会社とのシェア争奪戦や同期との出世競争が日常化しているけど、この塩辛い年齢から始めたマラソンでは、華々しい記録を臨めるわけでもなく、まずは完走することであり、次に自分が目標としたタイムに、如何に近づけられるかだけである。
争わない。無理をしない。諦めない。
これがオヤジ・マラソンの三原則なのである。
※写真は本文とほぼ何も関係ありません。
(店主YUZOO )
9月 24, 2019 店主のつぶやき | Permalink
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