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2019年2月12日 (火)

第50回 紙の上を旅をする




高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)

2019年も早いもので1ヶ月が過ぎた。
正月は、飲酒、読書、ランニング三昧の悪癖と知性と健全が入り混じった生活を送っていた。
しかし2月に入ったところで変化はない。
相変わらずの暮らしぶり。
酒を呑んではこの世の憂さに耳を傾け、旅行記や紀行文の行間に現実逃避し、こんな日々を過ごしてはいけないと、ヨタヨタと汗にまみれて、近所を走るのである。


最近は高野秀行の諸作を古本屋で見つけては、酒を枕元に置いて、布団の中でページをめくるのが、無上の悦びとなっている。
この本は高野秀行の名が広く知られるようになったマイルストーン的な作品。
中型サイズの辞書ぐらいの厚さがあるので、眠れない夜には、うってつけの本である。


この本の舞台であるソマリアは、アフリカの角と呼ばれている地域で、民族間の内戦が絶えず、角の先にあるアデン湾では海賊が跋扈し、外務省が渡航危険地域に指定している場所である。
数年前、海賊達のホームグラウンドであるアデン湾へ自衛隊を派遣することに、国際貢献だの、憲法違反だの、非武装だの、非現実的だの、米国追随だの、眼には眼をだの、国会が喧々諤々と揺れ動いた。
その地がソマリアだと言われれば、ポンと膝を叩いた人も多いだろう。
しかし実際はどのような人々が生活していて、どのような文化や宗教を持ち、どのような習慣を常としているのか、何も知らないのである。
つまり私を含めて、ソマリアについては、何だか物騒な国で、行くのならば命の覚悟を決めたほうがいいんだろうなと漠然と思っているだけで、無知の知にさえなっていない。




著者はソマリアについての情報がほとんどないなか、ソマリアが内戦の国、海賊の国、平和の国の三つに分裂しているという話を聞き、現状がどうなっているのかその眼で見たくなり、彼の地へ旅立つのである。
特に独自の解決方法で、平和国家を樹立したソマリランドが、気になって渡航を企てる。
ちなみにソマリランドは国際的に認められていない未承認国家でありながら、銃は回収されて治安が良く、経済も窮することなく、国民は平和な生活を送っているという。
著者はジャーナリストというより辺境作家と自称するだけあって、ソマリランドの政治システムや国家体制に着目するよりも、ソマリ人の気質や人柄に思いを寄せ、長年培ってきたソマリア伝統の智慧で、内戦を終結させたことに眼を瞠る。


その解決方法についてはここでは記さないが、帯にあるような「西欧民主主義、敗れたり!!」のコピーは、当たらずも遠からず。
西欧的価値観で善悪を定めて、一方を支持し一方を排除しようとするから、紛争や内戦が長期化、泥沼化するのであり、このソマリランドがとった方法は、今後の平和的な解決を示唆しているかもしれない。


読み終えた後、世間擦れして濁っていた私の眼に潤いが戻ったかのようだった。
おかげで朝まで眠れずにいたのだが。
久しぶりに眠れない夜を過ごしてみたい方は、枕元にいかが。


(店主YUZOO)

2月 12, 2019 ブックレビュー, 店主のつぶやき |

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