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2018年8月30日 (木)

第47回 耳に良く効く処方箋




O.V.ライト『ライブ・イン・ジャパン』(ハイ)

魂の歌唱と謳われたサザンソウル・ファンのなかでは人気の高いライブ盤である。
その理由としては実際にコンサート会場に足を運んだ人が、O.V.ライトの鬼気迫る歌に神々しさを感じ、伝説として伝わっているからだろうか。
来日を果たした翌年に帰らぬ人になっている。

O.V.ライトが来日したのは1979年。
残念ながら、私はO.V.ライトの歌う勇姿を眼の当たりにしていない。
何せ、当時はニキビや恋に悩む蒼き高校生である。
サザンソウルの濃厚な塩辛い歌に心を奪われるような年頃ではないし、60年代ブリティッシュ・ビートやパンクにどっぷりと浸った耳しか持ち合わせていない。
だからO.V.ライトの来日するファンの熱気は知る由もないのだが、別の見方をすればこのアルバムにパッケージされた放射するエネルギーが原体験。
邪推することなく純粋な気持ちで、向き合うことができるのが、冷静な判断につながる。
体験に勝るものはないけれども、未体験だけに想像力が武器となる。

結論から言ってしまおう。
このアルバムは死期を悟ったO.V.ライトが、特別な感情に突き動かされ、聴衆に何か伝え残したいという意志を貫いた、他とは比較しがたい名盤である。
いわゆる凡庸なライブにありがちな、薄っぺらなメッセージを伝えたいという感情ではない。伝え遺したいという強靱な魂で貫抜かれている。
渾身の力を振り絞って歌う姿に、魂を揺さぶられるのは当然のこと、O.V.ライトの遺言といっても過言ではないアルバム。


ゴスペル・シンガーとしてキャリアが始まった人である。
「ソウルは教会音楽だ」と断言するような信仰に篤い人である。

白眉は代表曲をメドレーで歌う6曲目。
「God blessed our love 」から「You’re gonna make me cry 」と滔々と歌っていく姿をこの日、目の当たりにした観客は神の恩恵とO.V.ライトが説く愛の尊さに、目頭が熱くなったにちがいない。
このアルバムの一番の聴きどころである。
このメドレーを聴けるだけでも、購入する価値は十二分にある。

惜しむべきは、CDの時代にあってLP時代のストレートな再発ではなく、この伝説のコンサートの全貌をパッケージした完全ライブを望みたい。
体調不良ゆえに声が出来れていない曲があってもいい。
それでもO.V.ライトの歌に対する真摯な姿勢に、涙を流さずにはいられないだろう。

しかしそれは酒の湧く泉を見つけるのと同様、塩辛いオヤジの叶わぬ夢なのだろうか。
もしそんな盤が発売されたら、日本のオヤジの3%ぐらいは元氣になると思うのだが。

(店主YUZOO)

8月 30, 2018 店主のつぶやき, CDレビュー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年8月28日 (火)

第46回 耳に良く効く処方箋




アレサ・フランクリン『レア&アンリリースド・レコーディングス』(アトランティック)

アレサ・フランクリンが天に召された。
あまりにも偉大な存在ゆえに、音楽を愛する者の喪失感は計り知れない。
ここ数日はアレサが残した遺産に静かに耳を傾ける日々が続いている。
そんな喪に服している人も多いのではあるまいか。私もその一人。

しかし不思議なもので、力強く聴く者を包み込むような歌声は、気分が落ち込んでいればいるほど、憂鬱に苛まれている私を励ましてくれているようで、逆に勇気づけられている気分になる。
「悲しみに打ちひしがれてないで、顔を上げて前を向きなさい」と諭されているようである。

アレサの長い音楽生活のなかで充実期といえば、コロンビアからアトランティックに移籍して数々の名演名曲を発表した60年代。
ソウルの女王という称号を授かった時期という見解は、誰もが一致することだろう。
公民権運動の機運が高まり、ブラック・イズ・ビューティフルが声高に主張していた頃、時代の寵児として颯爽と登場した印象が強い。
(残念ながらアレサの登場時期は、まだ私は虫捕り網を振り回して蝉を取っていた厚顔の美少年。原体験ではなく、追体験になってしまうのだが)

あなたは考えた方がいいわ
あなたが私に何ができるかということを
考えた方がいいわ
あなたの心が解き放たれて自由になることを「Think 」

女だって人間よ
そのことあなたは理解すべきだわ
単なる慰めものじゃない
あなたと同じように新鮮な血が通っているのよ
「Do right woman -Do right man 」

他人が書いた曲であろうと、アレサ流に解釈して、普遍的なメッセージ・ソングへと昇華させてしまう才能。
ゴスペルに幼い頃から慣れ親しんだアレサは、社会の不正義や差別する人間の不誠実に対して、この才能をたずさえて、それらに戦いを挑んだのだろう。
しかしそこには神を信じる者だけが救われるといった偏狭なものではない。
その伸びのある歌声は、抑圧された人々に勇気を与え、自由で新しい世界を、人間が人間らしく生きる世界を、創り上げようという意志に変える力があった。

この説得力のある歌唱と時代の機運をとらえた歌詞が、当時の人種差別に苛まれた黒人に、エネルギーと意識を高めたのかは、想像に難くない。
とくに黒人女性にとっては自分たちの気持ちを代弁してくれる、輝かしい女性として映っていたのではないだろうか。

さてこのアルバムは、アレサが神がかっていた頃の未発表曲とレア音源を2枚にまとめたもの。
2008年に発表されてソウル・ファンの間では、かなり話題になったアルバム。

今回、アレサの死を機に聴いてみようと思う人には不向きだが、全盛期のアレサがどれだけ才能を解き放っていたのかを知るには絶好の1枚。
未発表曲、つまり採用されなかった曲ばかりを収められているのに、凡人で到達できないようなクォリティで、既発表曲と何ら遜色はない。
ソウルの女王と呼ばれた理由が、否応なくわかるアルバム。
ひと通り聴いたら、ぜひ耳にしてもらいたい一枚です。

(店主YUZOO)

8月 28, 2018 店主のつぶやき, CDレビュー | | コメント (0) | トラックバック (0)