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2018年5月28日 (月)

アルファホテル・インフェルノ




グジェリからホテルに戻ったら、買付史上、最大の災難が起きたのである。
その日はアントン君にグジェリ駅まで送ってもらい、近郊電車に乗って意気揚々と常宿であるイズマエロボのホテルが林立する地へと帰った。
イズマエロボのホテル群は、1980年のモスクワ・オリンピックの選手村だった場所で、オリンピック閉幕後、ホテルへと生まれ変わった。


買付人としては近くにはベルニサージュという市場があるし、中心部へも地下鉄で乗り換えなく行ける。
また最近は外環状線が全通したおかげで、モスクワ郊外に行くにも便利になった。
エアコンが付いていない部屋が殆どなので、観光客には向いていないかもしれないが、買付人にとっては絶好の立地条件なのである。




それはさて置き、大量のグジェリが入ったバッグを両手に、左にヨタヨタ右にトボトボと歩き、ようやくアルファ・ホテルへと辿り着いた。
このアルファ・ホテルはイズマエロボ・ホテル群では、一番施設が充実していると、仲間内からは噂されている由緒正しきホテルである。

部屋に辿り着いて万歩計を見ると、15,000歩を超えている。
その事実からも、両手に10キロ以上の陶器を持って歩いた行程の過酷さが、お分かりいただけるだろう。
買付は目が利く審美眼を持つこと以上に体力勝負なところがある。




椅子に座って小休止。
買付した戦利品を眺めてニヤニヤと微笑んで、お茶を飲んでいると、突然激しくドアを叩く音がする。
ドアを開けると部屋清掃のおばちゃんが、鬼の形相で仁王立ちし、私に対して抗議をするがごとく強い口調で捲したてる。
「あなた!部屋が違うわよ!出て行きなさい!」と咎める風でもなく、
「休んでなんかいないで、陽が暮れるまで働きなさい!そんな法律が日本で成立したでしょ!」と弾劾しているわけでもない。


こういう時はロシア語が話せないのは、実に困る。
ただ「早く、一階に降りなさい!」という意味だけは理解できたので、着の身着のまま、廊下に出てエレベーターに乗ろうとすると、非常階段で降りなさいと理不尽な指示をする。
11階から歩いて降りなさいとは、砂糖がかかった秋刀魚の塩焼きを食べさせられるような災難だと思いつつ、おばちゃんの勢いに急かされて一階フロアに降りると、何やら物々しい様子。
ただ事ではない。


消防士がホースを持って入ってくるわ、辺り一面が白い煙で充満しているわ、ヘリコプターが旋回しているわ、消防車が何台も停まっているわの大騒動。
そこで初めて何が起きているのか理解したのである。
「火事やんか!」



その後、多数の宿泊客とともに駐車場から様子を眺め、どのような顛末になるのか、買付たモノが焼けたら嫌だなとか、もう少し着込んでくればよかったなとか、携帯電話を忘れたなとか、取り留めのないことを考えて、収まるのを待った。
幸いにも火の手が上がるような地獄絵にはならず、怪我人も出ず、ただのボヤ騒ぎで済んだ。
後になって知ったのだが、エレベーターの一機が出火元のようである。




ただし無事に消火されても、現場検証を行ったり、換気をして煙を排出したり、水浸しになったフロアの清掃があったりして、すべてが終わるまで部屋に戻ることを許されず、ようやく部屋に戻れたのは夜中の11時半。
もちろんエレベーターは使用不可で、降りたときと同様に非常階段で、11階までひたすら部屋を目指して登ったのである。
やれやれ。


(店主ЮУЗОО )

5月 28, 2018 店主のつぶやき, 海外仕入れ |

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