« 雨のロシア蚤の市 | トップページ | グジェリの名も無き逸品 »

2018年5月23日 (水)

ボゴロツコエ・フェスティバル




今回の買付のメインとなるのがボゴロツコエ・フェスティバル。
買付人としては、以前にセミョーノフ、ゴロジェッツと工芸が盛んな町で同様のフェスティバルに足を運んだとき、大きな成果を上げただけに、否応にも期待が高まる。
ボゴロツコエについて多少説明すると、大きな熊の彫り物や柱の彫刻など、木彫に関することならばわが町にお任せください、という職人気質が今も息づいている町。
私のレベルでは、等身大の熊を発注して輸送するノウハウも売り先もないので、紐のついた玉を回すと板のうえに乗ったニワトリが順番に餌を啄ばむ、クローチカという素朴なおもちゃを主に買い付けているが、本当は木彫が知られた町なのである。

その地で開催されるフェスティバルとなれば、クローチカを主に製造している工場以外にも、新たな工場や工房が見つかるかもしれない。
セミョーノフやゴロジェッツのフェスティバルでは、200近くの出店が軒を連ね、いくつかの逸品、珍品、希少品を掘り出した確固たる実績もある。
新たな出逢いの物語が、この町で始まるはず。
その期待が初恋をした若き頃のように心臓の鼓動を高めている。




当日は小雨が降っているものの、傘を差すほどではない。
ようやく運にも恵まれてきたようだ。
フェスティバル会場に入ると、簡易ステージが眼に飛び込んでくる。
風船で装飾された学園祭並みのステージだが、その質素な佇まいこそ、未だ見ぬ工芸作家が片隅で出店を暗示しているようで、思わず細い眼をさらに細める。


インターネット全盛の時代に自ら宣伝するわけでもなく、ひっそりとフェスティバルのために、作品をつくっているバブーシュカ(お婆ちゃん)が、机いっぱいにマトリョーシカや木のおもちゃを並べている姿を想像してしまう。
バブーシュカは、木彫も得意で子熊や仔猫の愛くるしい作品も並べている。


プラトークからのぞく風貌は、この世の不幸をすべて見てきたという苦渋に満ちているが、一旦話を始めると止まらなくなるバブーシュカ。
日本人と話したのは生まれて初めてだよと顔をくしゃくしゃにして笑うバブーシュカ。
計算が苦手なバブーシュカ。
私の頭のなかでは、初めてロシア買付をした10年前に巡り逢ったナジェンダ・ニコライバさんの再来を、勝手に想像している。


こうなると、ボゴロツコエは大いなる叙事詩である。
ステージの裏手には広場があり、その外れでバブーシュカは私との出逢いを待ち侘びているはず。
ボゴロツコエで生まれた隠れた名品が、日本に紹介されるときは、今そこまで来ている。




だが、しかし、詰まるところは、叙事詩は遥か彼方へと流れていった。
ステージ裏には10数軒の出店のみ。
東西南北、前後左右、何も無い。
空を見上げても青い鳥は飛んでいない。
もちろん苦虫を潰した表情のバブーシュカもいなかった。

結局、いつも買付をしているクローチカ工場で、気分転換に大人買いをした次第。
フェスティバルのせいか、いつもロシア的な対応の社員も殊の外対応が良く、何人もの社員が出てきてひとつずつビニール袋に入れていたのは、その非効率的な大らかさに口元が緩んだ。

結論。
ボゴロツコエ・フェスティバルは、町内会の餅つき大会と同じである。
以上。

(店主ЮУЗОО )

5月 23, 2018 店主のつぶやき, 海外仕入れ |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/184818/66750770

この記事へのトラックバック一覧です: ボゴロツコエ・フェスティバル:

コメント

コメントを書く