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2018年5月 8日 (火)

ハイボール!ハイボール!




どうも私の舌は高貴な酒には順応していないようである。
居酒屋に行っても、まず眼に飛び込んでくるのは、ホッピーやハイボールといった品書きであり、幻の銘酒や限定入荷の類、ボジョレーヌーヴォー入荷しましたという売り文句は、我が網膜には映らない。


小洒落たショットバーで、スコッチが透明な氷に反射して琥珀色にきらめくのを愉しみながら、舌先で堪能するというような芸当は持ち合わせていないのである。
居酒屋の馬鹿明るい蛍光灯のしたで、まずはビールにしようか、いやプリン体が気になるから最初からハイボールでいくよなどと、戯れ言を呟きながら、最初の酒を決めかねているのが性に合っている。
先頭バッターに銘酒やワインが告げられることは、まずない。
ビールかハイボールのどちらが、今宵の切り込み隊長に適しているか、ちまちまと悩むのである。
お気楽な監督には違いないのだが。




さて長年先頭バッターとして君臨していたビールの座を脅かす存在となったハイボールであるが、どうにも腑に落ちない点がある。
酒造メーカーの積極的な宣伝活動も功を制して、居酒屋の壁には色香が漂う女優が「今宵はハイボールにしましょ」と潤んだ目で見つめるポスターがあり、品書きには何種類ものハイボール・メニューが連ねていて、今や空前のブームと化している。
本来ハイボールというのは安ウィスキーをソーダで割っただけの酒なのに、ジンジャー、レモン、トニックなどの味付けがなされたもの、普通ならばロックで味わう高級ウイスキーを使ったものまで、堂々と名を連ねているのが、一介の酒呑みとしては許し難いのである。


安ウィスキーとはいえ、他の味を加えられるのは、本人としても浮かばれないだろう。
自分は誰かの手助けがなければ、呑兵衛の安直な舌先さえも満足させられない未熟者に成り下がったみたいで、もしくは甲種焼酎と同等の扱いをされたことに一抹の悲哀を感じているにちがいない。
甲種焼酎は一時期、イチゴ、キウイ、パイン、ピーチなど様々な果汁で割ったもの、ピンク、ブルー、バイオレットといった色彩豊かなものまで登場して、居酒屋メニューの看板スターとなった。
しかし一世風靡したのも今や昔。
あの毒々しい色彩の酎ハイを注文する輩は皆無である。


安ウィスキーは同じ末路を辿るのではないかと不安なのである。
その逆に高級ウイスキーは、安物と同じ待遇に、そのプライドが許さない。
ソーダで割ることで、蒸留時に染みついたスモークな匂い、樽の香りといった自慢の芳香を掻き消され、しかも酒造メーカーの名前が印刷された安直なカップに注がれ、製氷機の四角い濁った氷に浸かるのが、憤懣やるせないのである。
ガラス玉のように透き通った丸い氷と共に、切り子細工の鮮やかなグラスに注がれ、琥珀色の身体とスモークな深い味わいを愉しんでもらうのが本望であると。


そのような観点からハイボールの品数が乱発されるのが嫌なのである。
私の望むハイボールは、少し濃いめでソーダは強くてパンチの効いたもの、氷はひとつのみというのが好い。
この単純明快なハイボールは、時間が経過しても、薄くならずキリッと立っていて、酔いが進んでも適度に鈍った舌を刺激してくれる。
単純な味覚こそ美味い。真理である。

(店主YUZOO)

5月 8, 2018 店主のつぶやき |

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