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2018年3月 8日 (木)

第9話 一生に一度はお伊勢参りの旅





2軒目。
結論から話すと、的矢牡蠣の店は生牡蠣以外はオヤジ連中を唸らせる逸品がなかったので、早々に引き上げ、タクシー運転手のお墨付きの店へと向かう。
鵜方という土地は、呑兵衛横丁や○○銀座といった繁華街はなく、ぽつりとビルの一角や街角に青白い看板が出ているだけで、喧騒や活気がない。
外出禁止令が発令されたかのように静まり返っている。
駅前も没個性な駅舎がそびえているだけで、ロータリーにはタクシーも路線バスも停まっていない。


「本当にこの先に店があるのかね」
「タクシー運転手は嘘はつかないのが、全国共通でしょ」
「俺の住んでいるさがみ野駅前より寂しいよ」
「大網駅前よりもね」


住宅街を右へ左へ、上へ下へと迷った挙句、ようやく目的の店を見つけることができた。
彷徨した時間30分。
山中を遭難しかかった時に山小屋の灯を見つけたぐらいの感動、もしくは生き別れになった妹と30年ぶりに再会したぐらいの感涙。
オヤジ三人は手を取り合って、その店が幻でなかったことを喜んだ。


お店は五人ほどが座れるカウンターがあり、冷凍ケースには旬の食材が並ぶ、小綺麗な内装で、その日のお勧めからメニューはすべて手書き。
小太りな料理人とその息子が営んでいる、キリッとした緊張感を心なしか漂わせているのがいい。
もちろん小上がりに入らず、カウンターに席を取る。


呑み直しということで、とりあえず最近流行りの氷点下ビールと好物の姫竹の天ぷらと平目の刺身を注文。
姫竹は10年ほど前に山形を旅をした時に、地元の人にご馳走になり、塩茹でしたものが言葉を失うほど美味しかった。
なかなか東京ではお目にかかれないので、こうして伊勢路で邂逅できたのが嬉しい。
姫竹のほろ苦いなかにも甘味があって、シャキッとした歯応えがたまらない。
ビールの肴にはもったいない。
すぐに日本酒に選手交代。ビールは始球式みたいなものである。


日本酒は「作」といって三重県鈴鹿市の銘酒。
「義左衛門」と同じく果実酒のような芳香がふわりと漂わせて、喉越しも留まらずさらりと流れていくのだが、後味は少しばかりの辛味を残す、奥行きの深い味わい。
出会った時は何の印象も残らなかったのに、何故か心に残る清楚な女性という感じ。
何杯呑んでも、飽きのこない酒である。


当然、肴も細やかな気配りが為されて、すべて美味しく、地元タクシーが太鼓判を押すだけある。
菊池さんも内海さんも、ここに来てから頬も口元も緩みっぱなしで、舌先が滑らかになって、つい饒舌になる。
まさに至福の時。旅行の醍醐味。
神々が住まう土地で、ようやく地上の楽園を見つけた気分である。

閉店まで呑み続けたのは言うまでもない。

(つづく)

店主YUZOO

3月 8, 2018 店主のつぶやき |

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