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2018年3月 2日 (金)

第5話 一生に一度はお伊勢参りの旅





伊勢市駅から近鉄特急に乗って、一時間ほど南へ下って行くと賢島駅に着く。
もうひとつのメインである志摩観光ホテルの投宿となる。
何故に、これほどの名門ホテルに擦れ枯らしのオヤジ連中が宿泊するのかと、疑問視する声もあるだろう。
だいたい「オヤジ会」の基本綱領は、交通費と宿泊費を如何にして削り、呑み食いの予算を確保するかなので、過去の実績は五千円以下のホテルが多く、今回のような伊勢志摩サミットの主会場だったホテルを予約をするのは、異例中の異例。


不惑の歳を超えて、バカンスぐらいは最高級の贅沢をという境地になったのかと思われそうだが、実際は早めの予約だったので特別価格で手配できただけで、本質は何も変わっていない。
話のタネに志摩観光ホテルでも泊まろうか、というぐらいの軽い気持ちである。


現に、こういう高級リゾートホテルは、館内の施設で寛ぎ、絶品のディナーを愉しむのが本来の正しい過ごし方なのに、予約した時点で、素泊まりですと宣言してしまう小市民性。
そのディナーが自分の半月分の小遣いに匹敵すると知っただけで、電話の声が震えるほどの小心者。
さらに、朝食はどういたしましょうかと訊かれて、この金額ならば居酒屋にいけるなと、断ってしまう浅ましさも兼ね備えている。
性根からして貧乏性。
決して大物には成れない性格である。


ただ天下にその名を轟かせた高級ホテルだけに、ポーターやスタッフの対応は、凛として丁寧で、チェックインの待ち時間が、まったく苦にならない。
ホテルの扉が開いた途端に、急に時間の流れが緩やかになったみたいで、荷物を運んでくれるポーターの姿も優雅に見える。
高級ホテルは、宿泊する場所ではなく、時間を買う場所だと言われる所以が、貧乏性の私にも少しわかった気がする。




案内されたのは、英虞湾を臨む部屋。
真珠を養殖する筏が、遠くに見える。
「当ホテルは、英虞湾に沈む夕陽がたいへん美しいので、ぜひご覧くださいませ。本日は若干の雲がありますが、きっと綺麗な夕陽がご覧になれることと思います。伊勢志摩サミットで各国の首脳は、あちらの展望台で夕陽をお愉しみになられました。ぜひ行かれてはいかがでしょうか。本日の日の入りは、5時45分頃になります」

ポーターの細やかな説明に、オヤジ三人は、さすが高級ホテル、いいんじゃないのと、独りごちになり、今までにはないサービスに少し戸惑い気味。
また、ゆったりとした時間の流れに完全に身を委ねてしまっているせいか、ありがとうと大物俳優の台詞のように、余所行きの声で言ってしまうのが情けない。
ポーターが戻った後に、チップは渡すべきだったのだろうかと、頭を付き合わせて話し合うのが、さらに情けない。

日の入りまで一時間ほどある。

(つづく)

店主YUZOO

3月 2, 2018 店主のつぶやき |

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