« 『マトリョーシカはかく語りき』前夜 | トップページ | 第38回 紙の上をめぐる旅 »

2018年3月26日 (月)

第37回 紙の上をめぐる旅




忌野清志郎『忌野旅日記』(新潮文庫)

文庫本だからといって、侮れないことがある。
単行本が文庫サイズに変わったという単純な図式ではないことがある。
例えば加筆訂正が加えられていたり、単行本未収録の作品が追加されたりと、読者泣かせの編集がなされている場合があるからだ。
この辺りは、CDが売れなくなったのでリマスターを施したり、デモ・バージョンを収録したり、音楽業界と似ているのかもしれない。
少しずつかたちを変えて、何度でも買ってもらおうという魂胆が見え隠れする。


この本も文庫化にあたって、新たに5編の随筆が収録されている。
これを商魂丸出しの由々しき事態と捉えるべきか、吉報ととるべきが二つの意見があると思うが、この場合はその5編のために財布の紐を緩めなくてはならないマイナス面を差し引いても、後者の意見になるだろう。


この5編には、細野晴臣と坂本冬美と組んだHISのレコーディング風景や敬愛するバンド、ブッカーT &The MG’sとの交流が綴られていて、永遠に新作が発表されない現実を思うと、このような文章と邂逅することで、在りし日のキヨシローが多くの音楽仲間に愛されていたことを、追想することができる。


細野晴臣がリズムのサンプリングを創り出すのに、2、3時間も器材と格闘していて、退窟極まりなかったというエピソードは、その情景が浮かぶようだし、「恋のチュンガ」のボーカル録音時に、恥ずかしがる細野さんを無理やり説き伏せたら、暗くしたボーカル・ブースのなかで顔を真っ赤にして歌っていたという話は微笑ましい。


この頃の細野晴臣といえば、アンビエントだの、エレクトロ力だの、ニューエイジだの、眉間に皺が寄るような小難しい音楽ばかり演っていて、自身が歌うことがなかっただけに、この時期の貴重な本人歌唱曲となっている。
そんな後ろ向きな細野晴臣を口説き落とせたのも、キヨシローの人柄によるものに違いない。
同じように、数多くの音楽仲間とのエピソードが綴られていく。
スティーヴ・クロッパー、イアン・デューリー、山下洋輔、ドクトル梅津、片山広明、坂本龍一、仲井戸麗市などなど。

この本を読んで、改めてキヨシローが残した音楽を聴くと、この本に登場するミュージシャンと行ったレコーディングやコンサート、イベントが、お互いに敬意を払った交流だったから、あのような素晴らしいものが出来上がったのだと気づかされる。


ファンならば財布の紐が緩んでも、仕方がないと思える一冊。

(店主YUZOO)

3月 26, 2018 ブックレビュー, 店主のつぶやき |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/184818/66539587

この記事へのトラックバック一覧です: 第37回 紙の上をめぐる旅:

コメント

コメントを書く