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2018年3月14日 (水)

第12回 一生に一度はお伊勢参りの旅





お伊勢参りが終わってしまえば、あとはおかげ横丁を散策して、時間が許すかぎり食べ歩き、もとい呑み歩くだけである。
それはオヤジたちの性分だから仕方がない。
参拝したからといって、厳かな気持ちで、静かに東京に帰るわけにはいかないのである。


相変わらず空模様は曇天で、時折小雨が降り出しては風が舞い、思いのほか寒い。
何処か酒を振る舞う茶屋を見つけて一服しようかと話になったが、それだと尻に根が生えて動くのが億劫になるに違いないと思い返し、さらりと立ち飲みで数軒巡り、最後は名古屋で反省会というコースで一同納得。
そこに「生酒あります」という看板が出ているのを見つける。
渡りに船、眠りに枕、腰痛にインドメタシンとは、このことである。


「菊兄ぃ、ここで一杯やりましょうや」
と弥次喜多道中記になった気分で、菊池さんの袖を引っ張って、店の暖簾をくぐる。
菊池さんも満更でもないなという顔で、躊躇なく店の敷居をまたぐ。
お店は造り酒屋らしく、ずらりと日本酒が棚が並び、奥には酒樽が積まれているのが見える。

この酒蔵で造られているのは「おかげさま」という銘柄。
伊勢神宮の内宮を流れる五十鈴川の伏流水を使って造られているというから、日頃酷使している五臓六腑にも御利益があるというもの。
なみなみと注がれた盃に、口先を尖らせて、キュッといただく。
冷え切った身体の芯に、ポッと暖が灯り、胃袋がじわりと熱くなる。
喉越しは、昨日の「作」、「義左衛門」よりも日本酒度はかなり高めで、きりっと締まった辛口。
灘の酒を思わせる。
敢えて小女子の佃煮を肴にしたら、甘味と辛味が舌先で争って面白そうな味わい。




長尻しないのが取り決めなので、二杯目は頼まず、潔く店を出る。
不惑の年のK点を越してからは、三人とも名犬ラッシーのように聞き分けが良くなり、次行こうかの一声で、すぐに出る支度ができるようになった。
そのあとは立ち飲みで松阪牛の串焼と生ビール、お土産に七味唐辛子を買って、伊勢路を後にする。
後ろ髪を引かれず、適度に愉しんで終わりにするのも、大人になった証しである。




名古屋の反省会は、大海老フライや味噌カツを肴に、今回伊勢路では口にしなかった焼酎で、旅の疲れを癒す。
こうなると、東京だろうが名古屋だろうが、まったく変わらない。
酒呑みは品格、酒の肴は美味いものを少しだけという、伊勢路で生まれた名言は、アルコールとともに記憶の彼方へと消え、立て続けに焼酎のロックを注文する。

果たして、伊勢神宮の御利益は、オヤジたちにもあったのだろうか。
あったとすれば、こうして三人が一緒になって、酒を酌み交わせたことかもしれない。
もしかすると、それは小さいようで大きな御利益である。


(終わり)

店主YUZOO

3月 14, 2018 店主のつぶやき |

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