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2018年2月16日 (金)

第37回 耳に良く効く処方箋




メリー・クレイトン『ギミー・シェルター』(オード)

メリー・クレイトンと聞いて、すぐに誰だかわかる人は、ストーンズ・ファンに違いないと思うけど、というより『レット・イット・ブリード』で、このアルバムのタイトル曲で、ミックとのデュエットが印象的なシンガー。
「ギミー・シェルター」も彼女の歌声が無ければ、あの時代の張り詰めた空気感を表した名曲にならなかったかもしれない。


とにかくゴスペル仕込みのパワフルな歌声を聴かせる女性である。
経歴を見ると、小さい頃は教会で歌い、ティーンエイジャーになるとレイ・チャールズのバックコーラス隊、レイレッツのメンバーとして活躍、その血統書良さに納得のいくところ。


そのサラブレッドのレコーディングに、デヴィッド・T・ウォーカー、ビリー・プレストン、ジョー・サンプル、ポール・ハンフリーなど、超腕利きミュージシャンが集うのだから、羨ましい限り。
これで凡庸なアルバムしか創れなかったというのなら、全てプロデューサーの責任ということになる。


収録されている曲は、表題曲の他に、「明日に架ける橋」、ジェームス・テイラー「カントリー・ロード」、映画『ヘアー』の挿入歌「アイヴ・ガット・ライフ』、ヴァン・モリソン「グラッド・ティディングス」など、このアルバムが発表された1970年頃にヒットしていたり、注目されていた曲が中心になっている。
歌の上手い歌手と名うてのミュージシャンがヒット曲を演れば、良いものが出来て当然なのだが、何故かポピュラー史に名盤としてが残ることがなかった。




何故だろうか。
その原因を考察してみると、このアルバムが発表された時代背景があるのではないかと思う。


折しも、この時代に圧倒的な支持を得たのは、キャロル・キングやジェームス・テイラーといったシンガーソングライター。
もしくはニュー・ソウルと台頭と呼ばれたマーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、ロバータ・フラッグという面々。
歌の上手さが求められるよりも、内省的で淋しい心を癒してくれる歌であり、力強い歌声が求められたのは、60年代後半の政治の季節に同調した頃で、このアルバムの手法は、少し古く聴衆の心を捉えることができなかったのではないか。


私論であるが、1969年と1970年以降では、わずかその1年には精神を左右する大河が流れていて、誤解を恐れずに言うならば、カウンターカルチャー的な高揚感が潮が引くように消え、私的な出来事や問題を考える方が重視されるようになった。
オルタモントの悲劇が原因だという評論もあるが、本当のところ、この1年の間に人々の心に何があったのか知る由もない。


ただメリー・クレイトンという歌手が才能ないと言っているわけではない。
繊細な表現に欠けるものの、非凡な歌手であり、このアルバムが発表されて50年近く経った現在の耳には、そのタイトなバックと併せて、レア・グルーヴの視点から再評価されるべきだろう。


このアルバムがカウンターカルチャー全盛期に発表されていたら、メリー・クレイトンは歌う女戦士という肩書きが付いていたのかもしれない。
歌は世につれ世は歌につれとは、良く言ったものである。


(店主YUZOO)

2月 16, 2018 店主のつぶやきCDレビュー |

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