第32回 耳に良く効く処方箋
マリア・マルダー『オールド・タイム・レディ』(リプライズ)
最近の休日は、古き良きアメリカ音楽の匂いがするアルバムばかり聴いている。
肩肘を張らずに、何も考えずぼんやりと聴いていられる音楽が、この季節は良いのである。
先日の皆既月食は美しかったとか、このまま雪は四月まで残ったりしてなどと、たいして重要でないことを徒然なるままに思い返しては、音楽に心を合わせているだけで、和んだ気持ちになる。
その中でマリア・マルダーは、この季節に相応しい歌姫である。
古き良きアメリカ音楽の最良の部分を、その細身の身体いっぱいに蓄えて、澄んだ歌声で聴かせてくれる。
しかもこのアルバムでサポートするのは、ドクター・ジョン、ジム・ケルトナー、ライ・クーダー、エイモス・ギャレット等々の同じく古き良きアメリカ音楽に精通した面々。
何が不満があるだろうか。
1曲目はライ・クーダーの軽快なギターのピンキングに合わせて、歌姫が歌い出す「Any old time 」。
スライド・ギターに聴こえるのは、ディビッド・リンドレーのハワイアン・ギター。
この曲でこのアルバムのコンセプトがわかるというもの。
そして永遠の名曲「Midnight at the oasis 」へと流れていく。
この名曲の聴きどころは、何と言ってもエイモス・ギャレットの流麗なギターソロ。
このエイモス、隣に住んでいるギター好きのお兄さんのような人懐こっさがあるのに、ギターを持つと繊細かつ知的なソロやバッキングを聴かせてくれる、ただならぬ人物なのである。
このアルバムが出た1970年代は、ドラマチックで激情的なギター・ソロが支持を得ていたのだが、それとは異なるアプローチ。
この曲と同じく、ベターデイズで聴かせてくれた「Please send me someone to love 」も名演で、併せて聴けば、エイモスのギターの虜になるのは請け合いである。
また何処を切っても金太郎飴的なドクター・ジョンのピアノが軽快に転がる「Don’t you feel my leg 」、
ダン・ヒックスばりのジャジーな小唄「Walking one & Only 」など、バックの演奏を聴きながら、歌姫の美声に心をときめかせる曲が、たくさん詰まっている。
最後のデザートまで妥協せず、丁寧に作られたアルバムである。
正月太りしたなと腹の肉をつまみ、ジョギングをしようと考えている諸兄の皆さま。
こんな寒い時に外に出るのは、抵抗力も落ちているだけに身体に悪い。
ここは春の訪れを思い浮かべながら、良い音楽を聴いて、まずはやさぐれた心をマリア・マルダーの歌声で治すことから始めようではないか。
冬来りなば春遠からじである。
(店主YUZOO)
2月 5, 2018 店主のつぶやきCDレビュー | Permalink
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