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2018年2月 2日 (金)

第31回 耳に良く効く処方箋




オムニバス『ジャニス・ジョプリン・クラシックス』(P-VINE)

このアルバムは不世出のロックシンガー、ジャニス・ジョプリンがカバーした名曲を辿って、その軌跡を改めて認識しようという企画盤。


P-VINEが得意とする企画盤で、ローリング・ストーンズやビートルズ、レッド・ゼッペリンなどが同じく発売されていたが、最近はまったく音沙汰がないので淋しいかぎり。
オリジナル曲を1曲ずつ蒐集するのは、たいへん骨が折れることだけに、こういう明確な意図を持って企画されたアルバムは、ロックを聴いていて、更にそのルーツとなるブルースやソウル、R&Bを辿ろうとする金の無い若者には、うってつけなのだが。
一音楽ファンとして再考を願いたい。


さてこのアルバム。
まずはデビュー前にコーヒー・ハウスなどで演奏していた、フォークソングやフォーク・ブルースのスタンダード曲が並ぶ。
保守的なテキサスの町で生まれたジャニスは、馴染むことが出来ず、ビートニクに憧れてロサンゼルスに移り住んだりしたものの、望むような居場所を得ることが出来ず、その中で、ここで収められた「San Francisco bay blues 」や「Careless love 」を歌ったり、聴くことことが心の拠り所だったという。


そしてジャニスを一躍時の人にした伝説のモンタレー・ポップ・フェスティバルでの「ボール&チェイン」熱唱。
この曲は豪傑ブルース・ウーマン、ビック・ママ・ソートンのレパートリーだが、独自の解釈で完全に自身の持ち歌にしている。


ここでよく言われるのが、ジャニスの実力に比べてバック・バンドの演奏力の拙さが惜しまれるという指摘。
確かにリズムはタイトではないし、ファズを効かせたギターはノイズの垂れ流しで、冗漫な演奏ではある。
ただこのノイズまみれの演奏に乗せて、ジャニスが心を蝕む憂鬱を吐き出すように歌ったからこそ、ロック全盛期の新しいブルース表現者として、赤裸々に感情を吐露した女性シンガーとして、カウンターカルチャー全盛の60年代を代表する一曲になったのだし、この曲でジャニスは伝説のシンガーになったのだと思う。




もしブッカーT&The MG’sやハイ・リズムのような手堅くタイトな音を紡ぎ出すバックだったら、黒人みたいに歌える女性シンガーという枠に収まっていただけかもしれない。
やはり私にとってジャニスは、既成のブルースシンガーではなく、今までにないカテゴリーづけできない女性シンガーなのである。


ジャニスの遺作となった『パール』は、ソウルを中心にアルバムが組まれている。
興味深いことにスタックスやゴールドワックスのようなディープ・ソウルではなく、ガーネット・ミムズやハワード・ヘイトといったディープな色香を残しながらも都会的なシンガーの曲を多く取り上げている。
プロデューサーの意向が反映されているのかもしれないが、ここでも原曲の雰囲気を残しつつも、ジャニスらしい感情の起伏をストレートに表現した、素晴らしい歌声を聴かせてくれる。


ジャニス=ブルースという図式で語られることが多いけれども、そんな枠組みでは収まりきれないスケールの大きさを、この原曲を年代順に並べた編集アルバムを聴き、改めて感じる。
やはり不世出の天才シンガーだった。

(店主ЮУЗОО)




2月 2, 2018 店主のつぶやき, CDレビュー |

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