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2018年2月28日 (水)

第3話 一生に一度はお伊勢参りの旅




もちろん三人が注文するのは伊勢うどん。
それも海老天付き、山かけというプチ贅沢な逸品。
出来上がるまで時間があるというので、ビールで喉を潤そうという話になる。
いつもと同様に、ビールはお酒としてカウントしないという、オヤジ会のロシア的な発想によるもの。


早くも伊勢路に着いた時の初心を忘れてしまい、毎度のことながら、土鳩と戯れる伝書鳩のような志の低さに呆れてしまう。
周知の通り、ビールはれっきとした酒であり、サイダーではない。
メニューに地酒が無かったのが、せめてもの救いと思わなければなるまい。
神様が住まう伊勢に感謝である。


肴は玉子焼き。
ほんのりと甘く適度に固い、お弁当によく母親が作ってくれた懐かしい味で、意外にビールに合う。
「ふわふわの玉子焼きだと、ビールには不向きだね。このくらい固いほうがいい」
「懐かしい味で涙が出てきたよ」
などと、お互い言い合っているうちに、すぐにビールの追加となる。


こういう食堂は生ビールではなく、瓶ビールしかないことが多く、お互いのコップに注ぐ合うので、通常よりも呑むペースが早くなる。
私はこれを「瓶ビールの法則」と呼んで畏れている。
しかしビールの苦味と玉子焼きの甘味の絶妙な組み合わせに、たはっと舌鼓を打ちながら昼間から呑むのは、幸せの冥利に尽きる。
早くも旅行気分が全開。




「お待たせねえ」
と伊勢うどんが運ばれてきた。
奥様が私の母親と同じぐらいの歳だけに、その優しい言い方といい、すっかり家で食べているような気分になる。
関西の友人によると、伊勢うどんはコシのない、ハンペンのようなふわふわとした食感で、あれを同じうどんと呼ぶのは差し控えたいらしい。
丼には、蒲鉾のように真っ白い肌をした麺が、真っ黒い出汁に浸かっていて、出汁と混ぜて食べてくださいと言う。
麺は讃岐うどんのような透明感がないので、出汁と混ざると、味の染みた大根のような色になる。


まず一口すすってみると、舌先で千切れてしまうような柔らかな食感。
うどん特有の弾力もない。
赤ん坊の掌のように、ふわりとしている。
「なんか病院食を食べているようだな。お粥みたい」
「消化良すぎて、すぐに腹が減りそう」


二人にはあまり評判は良くないようである。
カツオと濃い口醤油でとった出汁に絡める味は、捉えどころがないが、老若男女問わず誰でも受け入れやすい味でもあり、多くの参拝者で賑わう伊勢という土地柄に合っているのかもしれない。


だいたい古来から神様を祀っている聖地で、脂でぎっとりした豚骨や口から火を噴きそうな激辛は、当然ながら似合わない。
私は伊勢うどんに対しては、肯定せず否定もせずという中道の立場をとることにする。

(つづく)
店主YUZOO

2月 28, 2018 店主のつぶやき |

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