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2018年2月 4日 (日)

第27回 紙の上をめぐる旅




渡辺光一『アフガニスタンー戦乱の現代史』(岩波新書)


アフガニスタンに最初の国際社会の眼が向けられたのは、1979年ソビエトが侵攻した時だろう。
まだ東西陣営に世界が分かれて、西側諸国はソビエトの暴挙に抗議し、経済制裁や渡航制限などの圧力をかけ、さらに象徴的だったのは、1980年のモスクワ・オリンピックをボイコットした。
メダル候補だったマラソンの瀬古や柔道の山下が出場できないことに、落胆した国民は多かったはず。
その後、2001年の同時多発テロ事件を受けて、ブッシュ大統領が「テロとの戦い」宣言し、大掛かりな掃討作戦に出る。


長年にわたってアフガニスタンが、戦乱の惨禍にあることをニュースとしては知っているのだが、それは時間の経過という横軸だけの認識であって、なぜ自国が絶えず戦争に巻き込まれなければならないのかという縦軸の認識がない。
資源に乏しく、大きな産業もなく、高山に囲まれた自然が厳しい国が、大国の論理に翻弄され、常に戦場とならなければならない理由を知りたいのである。
慣れ親しんだ土地を追われ、家族を惨殺され、難民になるのは、派遣された兵士ではなく、そこに生きている人々ゆえ、大多数のアフガニスタン国民は戦場になることは望んでいないはずだ。




この本はその問いかけに、アフガニスタンを構成する民族から、文化や宗教に至るまでを分かり易く説明してくれる。
冒頭の章から驚かされるのは、アフガニスタンは、過去一度たりとも国勢調査が実施されたことなく、国連機関やNGOが発表する人数は、あくまでも推定の域を出ていない。
しかし援助金や補助金を得るためには、推定でも明記しなければならず、多くの資金を調達するために、割増に申請するという悪しき慣習さえある。


他にも近代イギリスが、インド、パキスタンの植民地をロシアから守る要所として、三度の戦争があったことが記されている。
アフガニスタンは経済的に貧困国ではあるが、交通の要所として重要だっただけに、その地を有利に治めるため、強国から狙われていた。
やがては東西イデオロギーの要ともなり、前述のロシアによる侵攻があり、報復という名のアメリカ出兵がある。


この本が発刊されたのは2003年。
タリバン勢力が掃討され、困難で険しい道のりであるが、国を建て直すために、アフガニスタンの諸勢力が会議のテーブルに着いたことに、一筋の光を案じて締めの言葉としている。
だが15年を経た現在、著者の祈りは天に届くことなく、歴史が逆行するような事態となってしまった。
タリバン勢力は資金調達ルートから判断して、再び興隆することはないと、著者は断定的な発言をしていたのだが。


いつ終わるかわからない果てない内戦に、途切れることなく武器が調達されていく。
国民の生活さえ困難な国なのに。
どのような力関係によって、もしくは論理によってアフガニスタンが、このような過酷な運命に晒さなければならないのか。
祈るしかないだけの無力感だけが残る。

(店主YUZOO)

2月 4, 2018 ブックレビュー, 店主のつぶやき |

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