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2018年1月 2日 (火)

第9回 耳に良く効く処方箋




プロフェッサー・ロングヘア『ザ・ラスト・マルディグラ』(アトランティック/タワーレコード)

このアルバムで眼を瞠るべきは、再発をタワーレコードが「良盤発掘隊」というシリーズで行なっていること。
以前は新星堂がフランスのサラヴァ・レーベルやブラジル・サンバの再発を積極的に行なっていたが、大手レコード販売会社が直接再発に乗り出すのは、それ以来ではないか。
ドーバー海峡を泳いで横断したくらいの快挙である。快呼。


ただ世界初CD化というのではなく、以前にライノという再発レーベルから『ビック・チーフ』、『ラム&コーク』という2枚に分割された形で、この音源は世に出ている。
もちろん2枚とも所有しているが、オリジナルに忠実でない曲順だったり、1992年というデジタル音源化が発展途中の頃だっただけに音質が平べったく聴こえたり、あまり印象に残らないアルバムになってしまっている。


その印象を覆し、2枚のCDにまとめてオリジナル通りに再発した、タワーレコードの担当者の心意気には頭が下がる。
長髪教授の講義には、熱心に出席している生徒である私が言うのだから間違いない。


もうひとつ、この仕事ぶりに頭が下がるのは、1982年にLPで国内盤が出た時のライナーを、そのまま掲載していることで、日暮泰文氏の愛情溢れる文章に、このニューオリンズが産んだ稀代のピアニストの生涯に触れられる。





フェスには7人の子供がいた。35才くらいの長男から18才の娘までだが、その娘が「大学へ行きたいっていうんで、どんなことがあっても入れてやりたいんだ」と語っているフェス。その娘が大学へ入ったとすれば、彼は全ての子供を育て終わったという、緊張が解けた頃、この世に別れを告げたということになる。


長髪教授の特異性や革新性、音楽的な素地だけを論ずる文を目にすることが多いなか、生活の糧として音楽を演奏していたという視線は、目から鱗が落ちる思いであり、ひとりの父親像として立派に仕事を成し遂げたのだと、枕を涙で濡らしてしまうほど。
ちなみに我が家も今年で子育てが終わるので、この文章の一節は、なおさら感慨深い。


さてアルバムの内容はというと、娘を大学へ入れるために、いつも以上に張り切って鍵盤を打ち鳴らす、長髪教授の快演が聴ける。
この2年後に死を迎えてしまうとは、そんな翳りを一切感じさせない。


最後まで父親としても、ひとりの音楽家としても、その筋を通したのである。
偉大な音楽家である。

(店主YUZOO)

1月 2, 2018 店主のつぶやきCDレビュー |

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