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2018年1月31日 (水)

第29回 耳に良く効く処方箋




ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビック・ピンク』(キャピトル)

冬真っ盛りの季節となると、外に出ようという気もなく、ひたすら音楽を聴く休日になる。
あまり聴いていないアルバムを掘り出して新鮮な驚きに満たされるのも良いが、もう何百回と聴いたお馴染みを聴くのもいい。
そのアルバムを初めて聴いたときの喜びを思い出したり、サビのところを一緒に口ずさんだりする。
そんな冬の過ごし方も悪くない。


ザ・バンドのこのアルバムと2枚目は、何度聴いただろうか。
ボブ・ディランとリチャード・マニュエルの共作「怒りの涙」で始まる本作は、最初の1曲でその世界に入り込める稀有なアルバムである。
古き良きアメリカを思い浮かべるハートウォーミングなサウンドは、カナダ出身のメンバーが占めているグループでながらも、ロニー・ホーキンスやボブ・ディランのバックで演奏力を高め、ルーツミュージックを学んでいったのであるのだろう。


とくにロニー・ホーキンスのバックを離れ、独立した時は、場末のバーや安酒場のステージに立ち、ヒモや娼婦、アルコール中毒を相手にしていたというから、耳を傾けて聴く相手でもないのに、様々なレパートリーを要求されて、さらにバンドの結束力が高まり、このメンバーでしか出せない音を作り上げたに違いない。




例えで言うならば、ロック・バンドを目指している若者が「あんたら、楽器持っているんだから、『三年目の浮気』を演ってくれや」と酔漢からリクエストされるような状況。
その中でこのバンドならではの独特なサウンドが創り上げられた。
この例え、ちょっと違うかな。


このアルバムのベスト・トラックは「The weight」、「I shall be released 」なのは、誰もが認めるところ。
とくに「I shall be released は、1986年に残念ながら自殺してしまうリチャード・マニュエルがリード・ボーカルを取っていて、この人の哀愁を帯びた歌声に胸を締め付けられる。


俺には朝日が輝き出すのが見える
西に沈んだ太陽がまた東から昇るのが
いつの日かまた
いつの日かまた
俺は自由の身になるだろう


リチャードだからこそ、描くことができた世界だと思う。
武骨な男の繊細な心を聴くことことができる。
自ら命を絶ったのが口惜しい。

(店主YUZOO)

1月 31, 2018 店主のつぶやきCDレビュー |

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