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2018年1月26日 (金)

第25回 紙の上をめぐる旅




室謙二『非アメリカを生きるー〈複合文化の国で』(岩波新書)

良い意味で裏切られた本である。
表題から察すると、アメリカ永住権を取得した人が、かの地で生活していく際に、立ちはだかる人種差別や文化の違いに翻弄される半生を綴ったものと想像してしまうが、その内容とは異なる。


この本に登場するのは、最後のインディアンと呼ばれたイシ、スペイン戦争に自ら志願して赴いた若者たち、ジャズの革命児マイルス・ディヴィス、禅に人生の意味を問うビートニク、生き延びる術を幼い頃から身につけるユダヤ人。
それらの人々が信念として内に秘めているアイデンティティこそが、アメリカが本来理想として掲げている自由なる精神を体現しているのではないかと、鋭く考察している。


スペイン戦争に参加することは、共産主義に傾倒する恐れがあるとして禁止し、不当に取り締まる母国アメリカに屈せず、密航してまでもスペインに向かい、しかも武器も充分に手にしないまま約3割が命を落とす。
自ら危険を冒してまでスペインへと駆り立てたアイデンティティとはと、友人であるハンクの言動や回想録に答えを求めようとする。
またビートニクが東洋思想にこそ真理が在ると、仏教や禅にそれを求める姿に、たとえその修行が我流であったとしても、その姿にアメリカらしい自由なる精神が現れていると、著者は考える。




ひとつの音楽スタイルに安住することなく、飽くなき挑戦を続けたマイルス・ディヴィスの精神からも、征服者アメリカに敵対心を抱かず、インディアン文化を貫いたイシの精神からも、迫害と流浪の歴史から論理的思考を身につけることで現実を知るユダヤ人の精神からも、同様の自由なる精神があると考える。


敢えて著者が題名に「非アメリカ〜」と書いたのは、逆説的な意味合いを含んでいて、これらの人々はアメリカ社会では、少数で構成されたコミュニティであり、アウトローであり、落伍者であり、アメリカの大多数を表しているのではない。
しかしその「非アメリカ」が示す多様性に、価値観に、アメリカが独立宣言のときに高らに謳った精神が息づいていると考えたからこそ、副題に〈複数文化〉と加えたのだろう。


著者は終章で、アメリカについてこう綴っている。

《アメリカに住んでいて「自由さ」を感じるのは、この国には多様な要素があり、雑多なものが多く紛れ込んでいるからだ。さまざまな人種が住み、さまざまな場所(空間)がある。そこには異なった歴史と文化がある》


白人至上主義の大統領が就任しようとも、アメリカの魅力は、ここにある。

(店主ЮУЗОО)

1月 26, 2018 店主のつぶやきブックレビュー |

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