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2018年1月 9日 (火)

第21回 紙の上をめぐる旅




ロナルド・サール『ワイン手帖』(新潮文庫)

酒呑みとは、酒について何かしらウンチクを語りたい人種である。
ただ酔えば泰平というものではない。
酒の種類は言うに及ばず、銘柄から産地まで、強いてはその土地の風土からお国柄まで申さないと、気が済まない。


「日本酒は純米酒に限る。醸造アルコールを含んだのでは、この酒の良い部分を殺してしまっている」
「この◯◯正宗は、年間500本しか造らない小さな酒蔵でね。昔ながらの技法を忠実に守っているわけよ。酒の基本は、何も引かず、何も足さずだからな」
しかし聴く側も黙って盃を傾けているわけではない。
「私の舌が感じるには、◯◯正宗は甘味があり、刺し身には合わない。それに比べて見よ。この△△誉れは。水の如く滑らかで、刺し身にはもってこいの銘酒である」
と鼻の穴を膨らませて、やり返すのである。





安酒場では、この議論が延々と続くわけだが、論理が破綻しようとも、天地がひっくり返ろうとも構わない。
酒場の論議は、結論が導き出されることを好まないからである。


この「ワイン手帖」なる本。
ワイン通も日本酒党と同様に、酒について一席講釈をたれないと済まないようである。
著者は、それら酒を語る自称ソムリエたちを、苦い目つきで見つつ、ワインを語るのならば、しっかりと詩情を含んだ美しい表現で語りなさいと、叱咤するように綴っている。
皮肉とエスプリに満ちたイラストを添えて。


裏を返せば、この著者も多かれ少なかれ、我々と同じ安酒場の唎酒師と同じ血が流れているのではあるまいか。
ただワイン通が味を表現するのに、これほど言葉豊かに表現しているのに、それほどの詩情はなく、ひと言だけ、旨いと済ましてしまっている。
真の唎酒師だったら、その言葉の拙さにアルコールの酔いだけでなくとも、頬を赤く染めてしまうはず。


「ピリッとした辛さの残る熟成の頂点を過ぎた大年増の味」
「天国にいるような芳香」
「まだ若過ぎる、熟成させれば魅力が出るのは確か」
「心地よいスモーキーなあと味」


安酒場の唎酒師は、舌の経験値を上げるとともに、言葉遣いを鍛錬しなければならない。
しかし、頂点を過ぎた大年増の味がするワインというのを、一度呑んでみたい気がする。

(店主YUZOO)

1月 9, 2018 ブックレビュー, 店主のつぶやき |

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