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2018年1月13日 (土)

第16回 耳に良く効く処方箋




スリーピー・ジョン・エスティス『1935ー1940』(MCA )

故中村とうようの偉業は、世界各地の音楽を紹介し、その魅力と歴史などを知識豊かに説明してくれたことだろう。
ロックのルーツとなるとブルースを語るのが一般的な見解だが、さらにその先まで見据えて、リズムから発声方法まで掘り下げて分析し、分かり易く紹介してくれた。


なぜ清く澄んだ発声とは対極に、濁らせて小節を回して歌う歌唱法が、大衆音楽では好まれるのかという分析には、私の小さな眼が見開き、ぎょろりと瞳が唸ったものだった。
ブルースと浪花節を同系列で語れる斬新さがあった。


その中で私には馴染みの深い仕事は、MCAの豊富なカタログから「GEMシリーズ」と銘打って、戦前のブラック・ミュージックや大衆音楽を系統立てて、普段耳にしないような音楽を紹介してくれた。
レコーディングの意味を、録音より記録という部分に重きを置いていたように思える。





このスリーピー・ジョン・エスティスも、戦後再発見のデルマークでの録音ばかりが語られるなか、全盛期の1930年代を主に編集し、この悲運がつきまとうブルースマンの最も輝いていた時代にスポットを当ている。
この時代から盟友ハミー・ニクソンと活動を共にしていて、ほとんど曲で彼のハーモニカが聴ける。


二人とも技巧派というより、素朴さが前面に出ていて、ホームパーティで演奏しているようだ。たぶんジャグ・バンドの影響が強いのだろう。
デルマーク時代にはない明るさがある。

また歌っている内容も、生まれ故郷のブラウンズヴィルで起こった小事件だったり、彼女から手紙が来ていないかと郵便配達人に問いかける歌だったり、自身の生活での出来事を題材にしているものばかり。
それを独特の甲高い声で歌うのだから、何とも味わい深い。

こういう丁寧な仕事のおかげで、デルマーク盤のイメージが先行していた、スリーピー・ジョン・エスティスの全盛期を聴くことができるようになったのだ。


戦前の音源を、ドキュメントやヤズーといった再発専門レーベルではなく、大手レコード会社が復刻したのは、中村とうようの功績と言わなければなるまい。
スリーピー・ジョンも、ようやく真っ当な評価が成されて、草葉の陰で喜んでいるはずである。

(店主YUZOO)

1月 13, 2018 店主のつぶやきCDレビュー |

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