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2017年12月26日 (火)

第6回 耳に良く効く処方箋




キング・カーティス『インスタント・グルーヴ』(アトコ)

刑事ドラマの1シーンのようなジャケットである。
敏腕刑事カーティスは、晩秋の公園で長年探していた詐欺集団の親玉を、とうとう見つけ出す。
振り込め詐欺で多くの老人たちから金を騙し取り、その額たるや数十億円。
騙された老人のなかには、悲嘆に暮れて自殺した人もいるし、家族に顔向けできず失踪した人もいる。


それらの人々の心の内を思うと、善良な市民と同じく公園で優雅に散歩を愉しむなど、とうてい許されない行為であり、即刻捕まえて、冷たいコンクリートに囲まれた独房に叩き込みたい気持ちでいっぱいである。


しかし敏腕刑事カーティスを思い留ませることがあった。
この極悪非道の犯人も長年負い続けたせいか、だいぶ年を重ねていて、騙した老人たちの世代に近づいている。
その証拠に犯人の右手をぎゅっと握った孫娘の姿が視線の先にあるのである。
二人は落ち葉で埋まった散歩道を、ときおり笑顔を見せて、寄り添いながら歩いている。
逮捕される犯人の姿を孫娘には見せたくはない。


大木の陰に身を隠したカーティスは、今何処からか聴こえてくるこの曲が終わったら逮捕に踏み切ろう、と気持ちが揺れ動いたままだ。


その時流れていたのが、このアルバムの表題曲「Instant groove 」。
この黄昏の季節に似合わない極太のファンキー・ソウル・チューンである。
コーネル・デュプリーの歯切れの良いギター・カッティング、バーナード・パーディの機関車のような重量感のあるドラム、ジェリー・ジェモットのごりごりと唸るベース、その上をキング・カーティスのサックスが豪快に鳴り響くのだ。


センチメンタルな気持ちに陥っている暇はない。
とにかく音楽に必要なのは、老若男女が自然と身体が動いてしまうようなグルーヴを醸し出すことに尽きる。
そこの一歩先に進めない刑事さんよ、ここで奴に逃げられたら、それこそ、あんたは一生後悔し続けることになるんだぜ。
あの悪党は、人から騙し取った金でオモチャを買っているんだから、可愛い孫娘にまで詐欺しているのと変わりない。
改心するかどうかは、あいつが刑に服して自身で考えることだ。


ありがとう、キング・カーティス。
あなたの熱いサックス・ブローにソウルとは何なのか思い知らされたよ。
あの悪党には真実のソウルはない。
見せかけのソウルで一瞬だけ善人面を装っているだけさ。


そう敏腕刑事は呟くと、雲ひとつない晩秋の青空を見上げて、それから犯人の元へと歩み寄っていった。

(店主YUZOO)

12月 26, 2017 店主のつぶやきCDレビュー |

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