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2017年12月28日 (木)

第18回 紙の上をめぐる旅




藤本和子『ブルースだってただの唄』(朝日選書)

この挑発的な題名の本を書いた著者は、60年代アメリカを代表する作家、リチャード・ブローディガンを日本に紹介してくれた翻訳家。
学生時代にブローディガンの描く刹那的でありながら、独特のユーモアを散りばめた作品群に虜になっていた私には、その仕事ぶりに感謝しなければならない方なのである。


この本が出版されたのは1986年。
もう30年以上も前になる。
新刊として本屋に並んだ際に、すぐに購入したのだが、今回、近所の古本屋のワゴンセールで背焼けしているのを見て、懐かしさと同時に居た堪れなく再購入した次第。
もう内容は記憶の彼方に消えてしまっているし、アルコールで毒されていない紅顔の文学青年だった頃を、回顧する気持ちも後押しして。


この本、題名の通りにブルースについて論じたものではない。
公民権運動がアメリカ全土を席捲した時代から20年経て、黒人コミュニティにどのような変革や意識の変化があったのかを、インタビューを通して探る内容。
すべてインタビューされるのは黒人女性というのも、この本のユニークなところ。





一章は、臨床心理医、ソーシャルワーカー、放送局オーナーなどコミュニティに密接な関係する仕事をしている女性。
二章は、詐欺犯と殺人犯と刑に服している女性。
三章は、両親が奴隷だった百歳を超える女性。

それぞれが黒人女性であることで受ける差別や困難を、雄弁に語りつつも、地域に根ざしたコミュニティを形成していく行動力がある。
本の題名のように、悲嘆に暮れてブルースを歌っても何も前に進んで行かないじゃないかという強い意志が感じられる。
コミュニティが分断され孤立に陥ったら、今まで脈々と受け継がれてきた、文化や伝統、芸術までも失うことになり、黒人であることの意味さえなくなる。
それは死に等しいことなのだと言葉にする。
どのインタビュアーも黒人であることに誇りを持っていて力強い。

最後の百才を超えたアニー・アレクサンダーさんの言葉が特に印象的である。

「ふつうの人びとよりひどい目にあってきたとは思いません。ごくふつうの生と死でした。愛する者たちを失うのはとてもつらい。でも避けられない。陽の光と雨。人間には二つながら必要なのですから」

この本が出版されてから22年後、アメリカに黒人初の大統領が選出されたことを、どう感じたのだろう。
そう思わずにはいられない。

(店主YUZOO)


12月 28, 2017 店主のつぶやきブックレビュー |

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