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2017年12月19日 (火)

第17回 紙の上をめぐる旅




芥川仁・阿部直美『里の時間』(岩波新書)

季刊新聞「リトルヘブン」で連載されていた記事を編集したのが、この新書。
残念ながら、この季刊新聞については目にしたこともなければ、聞いたこともない。
ゆえにこの謙虚なタイトルに誘われて読んでみた。


この本には、つい最近まで日本各地で営まれていた生活が、どこか懐かしい写真とともに綴られている。
それは山の麓にへばりつくように在る集落だったり、豊かな里山を背にした農村だったりする。


都会に住み続けている私が、そんな集落や農村の生活を懐かしいなどと形容するのは、おこがましいのも程があるのだが、なぜそのような感慨に浸ってしまうのだろう。
この本にあるように脈々と続いた日本人が営んでいた生活様式が、近年著しく減少、崩壊し、もはや絶滅危惧種の様相を見せているからなのだろうか。

その土地には明治維新より前から、豊穣祈願、収穫祭、風習、慣習、文化などがあり、絶えることなく続いていた。それを継承することは、次世代へのバトンであり、永年に渡って続けることで、その土地の文化が豊かで実りのあるものになっていく。


日本人は、便利な生活様式と引き換えに、それらの文化を棄ていった、もしくは棄てざるおえなかったのだろう。お金がすべての生活の上に鎮座していて、背に腹はかえられぬ状況だったに違いない。
それは高度成長期にあった集団就職や出稼ぎ労働者といった史実から推測できる。


便利な生活を長年享受してきた私が、二枚めの舌で、田舎に帰ろうといった論戦を張るつもりはない。
ただこの本で伝えている土地に根ざした生活は、実に豊潤で、仕事に対しても、人間関係に対しても、悦びに溢れている。


もう便利な生活は、人生の悦びと同義語にはならないのではないのか。多様な価値観があってこそ、生活や文化を豊かにさせ、自身の人生の意義に繋がっていくのではないか。
この本に映る満面の笑みを浮かべるお婆さんたちを見ると、そう思わずにいられない。

12月 19, 2017 店主のつぶやきブックレビュー |

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