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2017年11月13日 (月)

第8回 紙の上をめぐる旅




山口瞳・開高健『やってみなはれ みとくんなはれ』(新潮文庫)

芥川賞・直木賞受賞作家が綴るサントリー七十年史。
両作家ともサントリー宣伝部に在籍していただけに、創業者である鳥井信治郎のベンチャー精神を、豊かな墨を含んだ筆で、活き活きと描いている。

しかし筆遣いの巧みさ以上に、鳥井信治郎の経営感覚があまりにも破天荒で、決断、発想、行動、冒険、挑戦、先見、人情、どれをとっても規格外。センチか、インチか、尺か、どの物差しで測っても測定不能。
その強烈な個性に、思わず私の小さな眼も瞠らざる負えない。
社史という特殊性を差し引いても、フィクションを悠々と越えてしまう経営者は、数えるほどしかいないだろう。

山口瞳は、その企業精神を明治期の実業家に根付いている心として「青雲の志」と名づけ、開高健は飽くなき挑戦に「やってみなはれ」という言葉で表した。

さて。しかし。現在。
麻袋に詰め込まれた小豆のような個性が、「自分探し」、「夢を信じて」、「新しいことに挑戦」だの声高に叫んだところで、どうやって麻袋から飛び出すことができようか。
少し紅く色づいた程度で終わりだろう。
撤回する公なる理由が見つかった時点で、その珠玉の志は微かな腐臭を漂わせ、時が経つにつれ、理由が結論へと移り変わりてしまうのがオチだろう。
酒場の議論にさえならない。

明治が規格外なのか、平成が既製品なのか。
世界がどんどん小さくなり、ライバルも国内だけでなく世界中の企業としのぎを削らなければならない現在、すべての会社が既成概念からの脱皮を謳っているものの、試みるのはどこかの二番煎じ、もしくは石橋を叩いて渡らずになってはいないだろうか。
目まぐるしく変化する世界に、思わず言葉を失い絶句し、舌を巻くどころか、尻まで捲り上げてはないだろうか。

開高健は「驚くこと忘れた心はつねに何物をも生みださない」と言い「森羅万象に多情多恨たれ」と説いた。
生き抜くための真理である。


11月 13, 2017 ブックレビュー, 店主のつぶやき |

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