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2017年11月29日 (水)

第1回 耳に良く効く処方箋




コーデッツ『リッスン』(CBS)

意外かと思われるかもしれないが、アカペラ・コーラス・グループが好きである。
無伴奏で人の声が紡ぎ出すハーモニー。
余計なモノを出さず、原材料にこだわるというウィスキー会社の心意気と似て、人の声本来の美しさを録音するというのは、なみなみならぬ努力がある。
今のように録音後にミックス作業で声のピッチを合わせたり、残響音を強めることができない、一発録音。
昔のアルバムのほうが、グループの実力が垣間見え、さらに加工されていない歌声だけに、良いブツに出会えると、自然と目尻が下がりだす。

オリジナル・アルバムは1957年発表。
「ジャケガイノススメ」シリーズの中の1枚で、世界初CD化として2007年に再発されている。
まず驚かされるのは、50年以上も前の録音なのに、ほとんどノイズは無く、女性コーラスの妙を十二分に愉しめること。
休符の部分でジャリジャリとノイズが聴こえてしまうと、純粋無垢な乙女にひそめたる残忍な気持ちを知ってしまったようで、興醒めする以上に、うら寂しくなってしまう。

アルバムのは「sentimental journey 」、「Basin street blues 」といったスタンダードナンバーやミュージカル曲を中心とした、今の観点から言えばラウンジ音楽的な構成。
音楽的な冒険はないが、4人の巧みなコーラス・ワークが愉しめる内容になっている。
金曜日の夜、バーボン片手に、若き日の甘酸っぱい思い出に想いを馳せながら聴くには、極上の酒の友。
彼女たちの歌声に、あの頃好きだった女の子が、グラスの底に見え隠れする。

コーデッツはCBSを契約後、ケイデンス・レコードの専属グループとして迎え入れられ、ロックンロール時代に順応して、「Mr sandman 」、「Lollipop 」などのヒット曲を連発して、音楽史に名を残すことになるが、もちろんその時はアカペラ・コーラスではない。
この純粋無垢な歌声は、このCBS時代しか味わえないものである。

どちらが好きかと言えば、私は断然に前髪パッツンのお下げ髪のようなCBS時代。
純粋にハーモニーを奏でる喜びに満ち溢れているし、若い女性の声のピッチが共鳴すると、音楽の魔法が現れる。
しかし楽器を取り入れたアレンジは、時代とともに風化し、時代が過ぎるとオールディーズの響きに変わってしまう。
それは音楽が流行という宿命を負わされているゆえ、仕方がないのかもしれない。
しかし歌声だけのアカペラは、時代を超えて普遍的な魅力がある。

それと忘れてならないのはジャケット・アートの清々しい美しさ。
女の子のスカートにはディズニー映画「わんわん物語」が描かれいる。
このカップルは初めてのデートで、田舎ゆえ行く場所は地元に一軒だけある喫茶店か、緑が美しい自然公園のなかを散策すること。
ただ二人で歩くだけでも、愉しくて仕方がないし、人生はどれだけの喜びに満ちているのかと考える。
そんな二人が写るジャケットを眺めているだけでもキュン死である。

11月 29, 2017 店主のつぶやきCDレビュー |

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