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2017年8月29日 (火)

第5話 ロシア買付日記




今日はモスクワ中心部を巡る旅。
モスクワの竹下通りと謳われている新アルバート通りや文具や本の問屋を回る予定。
新アルバート通りは観光客を相手にしているせいか、マクドナルドやハードロックカフェ、スターバックスなどが軒を並べていて、ロシア的な旅情を求めるには、気分が削がれる。日本各地にある○○銀座の様相を帯びているのである。
何処の都市でも外資系企業が進出して、金儲けに血眼になっているようで、これでは国名が異なるだけで、行く店はみな同じ。異国情緒などあったものではない。
やれやれ。





ただお土産屋には様々な工芸品が並ぶため、買付人としては、市場価格や新しい作家を見つけるのに、最良のカタログになる。
近くにはモスクワ最大の本屋「本の家」があるし、いろいろな刺激をもらえる場所ではある。
「本の家」はウィンドー・ディスプレイが本屋の概念を越えており、剥製の熊がカゴを背負っている「マーシャと熊」を模したものがあった。日本でいえば、紀ノ国屋書店か三省堂書店のガラスケースに2mの熊が鎮座していると想像してもらいたい。




そしてウィンドーショッピングをひと通り終えると、次は腹ごしらえ。
まずはロシアのファミリーレストラン的な「Му-Му」。
読み方はマイマイではなく、ムゥムゥと読む。牛の鳴き声が店の名前の由来。ビフェ方式なので、目の前にある料理を好きに選ぶことができて、値段もリーズナブル。
サイズを表す簡単なロシア語で、十分に腹を満たすことができる。
前は新アルバート通りの真ん中辺りにあったけど、アルバートスカヤ駅近くにも、もう一軒できていて、店前で牛が客引きしていた。





マクドナルドもダンキンドーナツも、英語表記でなくキリル文字で、ロシアで商売する以上、ロシア語表記にしろと圧力がかかったのか気になるところ。ソビエト崩壊後、マクドナルド1号店が、この新アルバート通りの店だったはず。
はずと書くあたりが、記憶に自信のない表れであるが、ただ20年以上も前の話題である。
果てしなく続く行列をこぞってメディアが報道していたのを、誰もが記憶の片隅にあるだろう。
ペレストロイカは遠くになりにけり。
ちなみに写真は平和大通り駅のマクドナルド。




文具と本の問屋街では、きのこ型の板に糸を通すだけのシンプルなオモチャを見つけた。
ほとんど日本では見られなくなった懐かしいオモチャである。
こういうものに出会うと、私の細い目がさらに細くなり、自然と目尻が下がる。
どんなオモチャなのかは、8月に店頭に並ぶまで、楽しみに待っていてください。
他にも、ロシア版大人の塗り絵やカレンダーも買付ました。

(店主・YUZOO )

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2017年8月26日 (土)

第4話 ロシア買付日記




今日は中距離バスに乗ってセルギエフ・パッサードへ。約1時間半の小さな旅である。
行き慣れた旅といえども、バスや鉄道の旅はやはり心が躍る。
モスクワ郊外に出ると何処まで続く果てない平原があり、時にはラベンダーが紫の絨毯となって草原を覆い、遠くには玉ねぎ頭の寺院が見え、飽くことのない景色が目の前に広がる。
気障な言い方かもしれないが、車窓から見える風景は一枚の絵であり、掌編小説である。
崩れかけた廃屋に絡まる樹木を見て、人々が生活を営んでいた頃の様子に思いを寄せ、自然が家屋を呑み込んでいく無慈悲さを痛感する。




チケット代は200ルーブル。(約400円)
距離を考えれば公共交通は、軒並み日本より安い。地下鉄だって、一回の乗車は距離に関わりなく70円程度。料金均一だから、わざわざ路線図を見て、切符を買う手間が省けるのも嬉しい。

セルギエフ・パッサードは世界遺産に登録されたセルギエフ大修道院とマトリョーシカ発祥の地として知られている町。
ショップ・ウィンドウもマトリョーシカを使った飾りつけをしている店が多く、目を楽しませてくれる。
もちろん観光で来ているわけでない。マトリョーシカ作家さんの家を訪問するのが目的だから、ご自宅や工房を巡っては、気に入ったものを買付ていく。




何を買付するかは腕の見せ所で、どんなデザインがお客様の好みに合うか、似たようなものを買わないように選ぶか、美的センスが問われる場面である。
ただ最近はインターネットの発達で、時差こそあれ、迷って悩んだ挙句に写真を転送すると、日本にいる美的センスが良いスタッフが、お客様好みのものを選んでくれる。

便利な世の中になった。
反面、地球から未知なる世界が減り、どんどん小さくなっていく。

(店主・Yuzoo )




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2017年8月22日 (火)

第3話 ロシア買付日記




♬今日は朝から雨ぇ〜
嫌な天気やけどぉ
さぁ一緒に出かけよう〜

有山淳司の歌ではないけど、空を恨めそうに眺めて、外へと出ていく。
買付で日曜日に雨が降るのは、月曜日の朝に人身事故で電車が止まるぐらいに最悪である。天候のことだけに誰にも文句は言えないし、ロシアの天気予報を聴いても理解できないので、午後からの天気さえわからない。
今日は一日中雨降りなのか。

100円均一で買ったレインコートを着て地下鉄へ向かったけど、周りを見ると傘をさす人も、雨具を着ている人も少ない。
この位の小雨ならば身体に良いと言わんばかりに濡れている。
幼稚園から帰る子供のような無防備な格好でいて、小雨程度に神経を尖らせている、こちらが恥ずかしい。




ロシア人にとって雨に濡れるということは、如何なる意味があるのだろうか。
大地の民であるロシア人は、自然と寄り添い生きていると、為すがままに、為されるがままに、茄子がママの好物であるかのように、受け入れているのである。
突然の雨降りのために、コンビニで随時傘を置いてある日本と、店舗でも傘を見かけることが少ないロシア。
民族学的な見地から探っても興味深いテーマかもしれない。

本日はモスクワ郊外にあるマトリョーシカ作家さんの自宅を訪問。
地下鉄を乗り継いで行く。
詳細は書けないが或るアイデアを伝えに行くのが主な目的。もちろん買付もだけど。
自宅の窓から見える景色は、緑が鮮やかで美しい。このような四季の風景を目の前にして描くから、あのような色彩鮮やかなマトリョーシカができるのかと、改めて実感。





お茶の時間に自家製ピロシキのおもてなし。
日本のピロシキみたいには揚げてはいない。
何処で間違って日本に伝わったのかなと、ぼんやりと考えてみたが食欲が勝り、カレーライスやラーメンが独自に発達したのと同じと結論づけてみた。
たぶん中央アジアのパンが揚げたものが多いから、それがピロシキとして伝わったのだと思うけど。
香り豊かなお茶と美味しい食事。それに愉しいお喋り。
それさえ満たされていれば、何も必要はない。ロシア語があまり理解できなくても、胃袋が理解してくれる。

(店主・YUZOO )




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2017年8月18日 (金)

第2話 ロシア買付日記





今日から買付初日。
朝の5時前というのに外が明るいので、目覚めも早く否応なく気分が急かされる。土日の市場は昼頃から賑わい、早朝はまだ商品を並べているか、お茶を飲んで寛いでいるかなので、そんなに気持ちを高ぶらせる必要はないのだが。
朝早くからテンションが上がっては、夕方迄には燃え尽きたマッチ棒になってしまう。





そこで腹が減っては買付できぬ、ということで、朝食をとることに。
ホテルのモーニングは高いので、ロシアのファーストフード「крошка картошка 」に行く。
この店、オーブンで焼いたジャガイモに、チーズ、サーモン、きのこなど好きなものをオーダーすると、トッピングしてくれる。
だいたい250ルーブルぐらいで食べることができ、値段もリーズナブル。(だいたい500円)
食事代を切り詰めることは、良いマトリョーシカを買うことに繋がると、改めて肝に銘じて、チーズとソーセージをトッピングした。





土日は蚤の市が出るので人出も多く、少しの差でお値打ちの逸品が他人の手に渡ってしまうので要注意。
食事も早々に終えて市場へと向かう。
数年前に比べると蚤の市はエリアが拡大し、様々なものに出会えるようになったが、反面業者風の露店も増え、価格を吹っかけてくるから、こちらの目利き力が必要になってきた。
わざとアンティーク風に汚して「これを買わなければ末代まで後悔するぞ」などと真顔でくるから、まったく気が抜けない。
しかし、これが買付の醍醐味と言えば、それまでだが。

(店主・YUZOO )

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2017年8月15日 (火)

第1話 ロシア買付日記





9時間半のフライト後、入国審査を受けて、ようやくロシアの地を踏む。
ロシアの入国審査は人が地の果てまで並ぼうと意に帰さず、マイペースを崩すことなく、パスポートを昆虫の標本を見るように眺め、ひと息ついてから入国の判子を押す。
その時間、約5分。
そして休憩時間になれば、そそくさと席を外す。また次の職員がすぐに来ないことも多く、入国審査の窓口が閉じられたままの時も。
せっかちの国から来た人間にとっては、苛立ちで青筋を立ててしまいそうだが、もう10回以上もこの通過儀式を経験しているので、仕方ない、いずれは入国できるのだからと妙に納得してしまう。
私も大人に、いやロシア的人間になったものである。




ロシアとの時差は6時間。
北緯が日本より高いため、空を見上げると陽は高く、短い夏の陽射しが照りつける。
Tシャツ1枚で充分である。
この暑さだと、ついビールでも飲みたくなるのが心情だが、明日からの仕入れの準備が終わらないかぎりは、ぐっと我慢をする。
このあたりはロシア的な人間にはならず、誘惑に心揺れない大人でいることが、真の大人。




夕方、いつもの安食堂でペルメニとジャルコエ、それとクワスを注文。
クワスはロシア夏を代表する飲み物で、黒パンを発酵させた清涼飲料。独特の酸味が舌に心地よい。
二人分、1000ルーブルでお釣りがくる。
買付の旅で食費で散財するのは禁物。金の斧を持った愚か者。
食べ物は舌の記憶にしか留まらないが、工芸品はいつまでも眼を愉しませてくれる。
この境地になったのも、長年の経験の賜物と独りごちになるのも大人である。
結局ビールは飲まずに陽が暮れた。

(店主・YUZOO)

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2017年8月11日 (金)

ロシア蚤の市雑記





8日から木の香で開催されている「蚤の市」について、雑考を少し。
最近、日本でも土日になると公園や駅前広場で、クラフト市や蚤の市、それに古本市などが開かれ、その手のモノが好きな方には、楽しみな休日になっている。
使い捨て文化、浪費社会から、モノを大切にする社会への変化の兆しとも感じられ、古いモノが好きな私には、ようやく住みやすくなってきた。
冬来りなば、春遠からじ。
もっとも断捨離ができず、本やレコードは当然ながら、チラシやDMでさえ捨てられず、ファイリングしているぐらいだから、その冬籠り前のリスのような性格にも問題はあるのだが。





ロシアも土日になると、公園や駅前など人が集まるところに蚤の市が出店する。
しかし最近はモスクワ市の条例が厳しくなったのか、私がロシアに行くようになった10年前より数は減り、開催場所が市の中心部から郊外へと移ってきている。
以前は地下鉄の改札を出ると、道の左右に様々な出店があり賑わっていたのに、今は足を止める人もなく寂しい路端になってしまった。

仕方なく定期的に開催される郊外の蚤の市まで、足を延ばさなければならなくなり、しかも世界各地からコレクターやバイヤーがかの地を目指すようになったので、激しい争奪戦となっている。
私はアンティークの目利きではないので、世界の猛者には到底太刀打ちできないが、唯一マトリョーシカや木工芸品だけは、少しばかり眼光が鋭くなる。
マトリョーシカの底にあるサインを見たり、顔つきから何年頃の製作か推定し、ソビエト時代と判断すれば買うようにしている。





買う人の心理を巧みに読むのが、売る側の腕の見せ所で、最初に高値を言ってから、徐々に安くするのは常套手段。
「いくらだったら買うんだい?」
「欲しくないなら、値段聞かないでおくれ!」
という強者もいて、ロシア語が1歳レベルの私は「いらないなあ」と、すねたように返すだけである。

とくにチェブラーシカの古いモノを扱っている人は、相当に手強い。
こちらが日本人とわかるや否や
「コンニチワ。ワタシ、スズキサン、シッテイマスカ?」
「クロサワ、ゲイシャ。アリガトウ」
と聞き覚えた日本語で近づいてきて、それからチェブラーシカの縫いぐるみやバッチ、陶器など見せ始める。
日本人のチェブラーシカ好きを熟知しているようで、価格交渉も安易な値引きはせず、まとめて買うのならばこの値段にすると、やや強気に提示してくる。
こちらも、それなりにこの世界で飯を食べている。
すぐに白旗を揚げる訳にもいかない。





「このオッサン、うちらの売りだけで、今日の売上を稼ごうとしているな」
「半分は最近つくられたモノだし、上手いことやるね」
チェリパシカ氏と相手の出方を判断して、その中から、欲しいモノといらないモノに仕分け、欲しいモノだけを価格交渉する。
「このチェブラーシカの縫いぐるみは、あの店でこの値段で売ってた。だから同じ値段じゃないと買わない」
そう言って、先ほど買ったチェブラーシカの縫いぐるみを、スズキサンを知っているオッサンに見せる。
そうすると饒舌だったオッサンの舌は、潤滑油が切れたように回らなくなり、日本人は商売が上手いなあと愚痴をこぼす。

そんなこんなとエピソードがあって買い集めた、私なりの逸品です。
今回は、ロモノーソフやリュドーボといったロシアの名陶を中心に、普段買わないサモワールやソフビなども揃えてみました。
明日から連休、木の香でロシア蚤の市の雰囲気を楽しんでくださいね。

(店主・YUZOO )

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2017年8月 9日 (水)

最終話 阪急うめだ細腕繁盛記





お祭りは終わった。
今、お志乃とお澄、それにチェリパシカ氏と新幹線に帰京しているところ。
会話らしい会話もなく、ただこの1週間を思い返して、それぞれがニヤニヤと薄笑いを浮かべ喜びに浸っている。
今回のイベントが、至福の喜びだっただけに、思い返すことは山ほどあって、1週間がうたかたの夢のように感じてしまう。

関西に木の香ファンが、こんなにも多くいたことは、まったく想像していなかったのが正直なところ。
ただSNSやメールでやり取りしていたお客様が来店されると、初めて会うのに旧知の友のように、マトリョーシカ談義に花が咲き、また出会えた喜びで笑顔になる。
マトリョーシカが結んだ縁とでも言おうか。
マトリョーシカは子孫繁栄の意味もあるらしいですよと説明することがあるが、一期一会の意味もありますと付け加えても、今や何も不思議はない。





「なかなか銀座は行かれへんので、今回だけでなく来年も開催、頼んます」
「こんなにマトリョーシカが集まったのは、初めてちゃう」
「店主ブログを休まんといて。楽しみにしてますさかい」
筆不精な私には耳が痛いコメントもあるが、どのお客様も次回の開催を、心の底から希望されている。
その言葉が思い返すたびに、ビールの酔いも手伝って実に心地良く、この仕事を続けて本当に良かったと、独りごちになる。
次はどんな展示にすればお客様に喜ばれるだろうか。3人と話す車内も、また愉しい。





お客様が更に満足される展示になるように、この細い腕によりをかけて、ロシアの未知なる逸品を探してまいります。
まだまだロシアには、驚くようなお宝が仰山眠っているさかいに。

ありがとう、華の都大阪。
愉しい夢のような1週間でした。


(了)

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2017年8月 7日 (月)

第6話 阪急うめだ細腕繁盛記





イベントも5日目ともなると、塩辛い年齢のオヤジにはきつく、腰や膝が痛くなったり、目がショボショボしてきたり、意味なく溜め息をついたりしている。
開店から閉店まで、ほぼ10時間立ち通しだから無理もない。
「責任者、出てこい‼︎」
と叫んだところで、自分で取り組んだ企画だから、自分自身に返ってくるだけ。
ひとりブラック企業を演じていると言ってもよい。
いや、お志乃やお澄、それにチェリパシカ氏までも巻き込んでいるから、確信犯的なブラック企業かもしれない。

連日の接客で気がついたのだが、やはり買い物にも関西には特有の文化があるということ。
「兄さん、少し勉強してぇや。それがダメならオマケつけてぇ」
という関東人が想像する典型的な関西人を言っているのではない。そんな花登筺の描くような人物像は、すでに絶滅危惧種になっている。たぶん。
私が提議するのは、もっと深淵なもので、文化人類学に近く、マトリョーシカに対する行動パターンを地域別分析したものというべきか。
徹底的に掘り下げて調査すれば、学術論文になるような興味深い内容で、一考の価値ありものである。




では最初の考察。
まずは同じデザインが続くマトリョーシカは好まない傾向にある。
たとえばキーロフやセミョーノフのマトリョーシカを開けていっても、入り数で感動を呼ぶものの、最後のひとつを見届けると、これで終わりかいなと、少々不満げな顔をされる。
それよりも物語を題材にしたものや、中身がバラエティに富んだものを楽しんでくれる。
写真の猫マトリョーシカは、なぜか最後がネズミなのだが、そのサプライズ感がたまらないようだ。
「最後に猫の腹からネズミを救い出したというオチやな?」
「実は3個目あたりから、ネズミに変わっていたんちゃうの?絵も何が描いているか、わからんし」
とか何かしら、関西人特有の独り言をつぶやいてくれる。物語でオチがあるものなら尚更である。
同じのが続くデザインのものでは、この独り言を発してくれない。



次に第2の考察。
次にマトリョーシカの中身を確認する方法である。
「これ、中からぽこぽこ出てくるんやろ?」
「はい、中から出てきます」
と応えると、中身を確認するのにマトリョーシカを耳元に持ってきて、振って音を聞き出したのである。
「あゝ、入っとる。入っとる」
とマトリョーシカを開けることなく、中身の有無を判断する。耳で中身を確認する方法は、10数年来、マトリョーシカを取り扱って、初めて見る光景。
初めはそのお客様特有の判別法かと思ったのだが、この5日間で10人ほど、耳元でかしゃかしゃと確認を見ているので、これは何かしら根底に共通する民族性のでちがいがあるのではと推測。
それは菓子箱を振って小判の枚数を言い当てる、お主も悪よのぅ的な商習慣にルーツを見ることができるのか、もしくは開けるのが面倒というセッカチな気性から来るのか。
結論を導くのにはまだ性急であるが、この行動パターンは注目に値する。




最後に第3の考察。
とにかく計算が早く、小売希望価格を告げている間に、瞬時に消費税の1円の桁を計算して、小銭を用意しているお客様が多い。
世界規模でいけば、インド人の次に計算が早いのではないかと思うほど。
計算が苦手な私には、どういう脳のメカニズムで消費税の計算をしているのか、甚だ検討もつかない。

この3つの考察を徹底的に分析すれば、関西の独自性が明白になるのではないか。
文化人類学を志す人には、ぜひ取り組んでもらいたい。ブラック企業の主犯格の私が、足腰の痛みと引き換えに辿り着いた、一筋縄ではいかないテーマである。
活発な議論を期待したい。

(つづく)

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2017年8月 6日 (日)

第5話 阪急うめだ細腕繁盛記





決戦の土曜日。
天気予報では台風が直撃するという噂もあったのだが、日頃の品行方正な生活をしっかりと雷神様は見ているのか、大阪に立ち寄るのは止めとこうと、じっと南方の海に鎮座しておられる。
品行方正な生活を過ごしているのは、もちろん私ではない。
たぶん番頭のお志乃か、デザイナーのお澄に対して、その謙虚な生活態度に感心しての雷神様の粋な計らい。
私に憑いている神様は、酒呑童子か貧乏神の二人しかいないのは、嫌というほど感じている。
しかも大阪に来てから酒呑童子が、私の胃袋に鎮座し続けている。




今日は淀川で花火大会が開催されるとあって、客足も良く、幸先の良いスタートを迎えられた。私の星座の乙女座も、新しいことにチャレンジすることは吉と出ている。
開店の音楽「🎵スミレの花〜、咲く頃ぉ〜」が終わると同時に、木の香にもお客様が来られる。

「木の香さんが大阪に来ると聞いて、もう休みが待ち遠しくて、待ち遠しくて、仕方なかったわぁ」
「木の香が来るんと知ってから、今日まで、よう眠れませんでしたわぁ」
などと、うら若き乙女に言われると、たとえリップサービスであっても、おだてられて木に登る豚のような気分になるのは、古今東西男ならば同じ道理。それに関西弁の柔らかな響きが、余計に木登り豚の気分にしてくれる。
この乙女の言葉を聞きたいがために、草臥れたオヤジがロシア買付に行く原動力になっている事実を、ここでお伝えしておきたい。




そして昨晩のこと、この木の香への思いに応えるために何をすれば良いだろうと、お志乃とお澄と打ち合わせした。
木の香は、北の某国とは違い独裁政治ではない。あくまでも協議して決定する民主主義を貫いているのは、周知の事実。
その結果、多めに刷ったポスターをプレゼントすることになった。
このプレゼントは好評で、お買い上げの際お客様に「ポスターはいかがでしょうか?」と訊くと、異口同音に「部屋に飾りたいので、・・・ください‼︎」と満面の笑みを向けてくださる。




これはデザイナー冥利に尽きるようで、お澄も、自分の作品がこれほどまでに喜ばれるとは予想外だったらしく、終始笑顔を絶やさない。
ちなみにポスターはだいぶ配ってしまい、残り少なくなっている。
ご希望のお客様は、お買い上げの際に、大阪人らしくモジモジとはにかむことなく、
「ポスターくれると聞いたんやけど、まだあるん?」と気兼ねなく訊いてください。
合言葉は「🎵スミレの花〜、咲く頃ぉ〜」です(笑)

(つづく)




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2017年8月 5日 (土)

第4話 阪急うめだ細腕繁盛記

【第4話 阪急うめだ細腕繁盛記】





商売の究極は、お客様に感嘆の声をあげてもらいたい。
レストランでお客様が「美味しい‼︎」と声を洩らすこと、お母さんが子供たちに「ママのつくったカレーが一番好き」と言われるのと、同根にある心情だと思う。
喜びの声。驚きの声。感動の声。
それを客商売する者として、聞きたいのである。

今回のイベントのテーマは、展示台から溢れんばかりのマトリョーシカ。
今迄に、これ程の数のマトリョーシカを見たことないと、お客様に声にならない感嘆の声をあげてもらいたいのである。
そこで寿司屋で言うところの「こぼれイクラ軍艦巻」のイメージで、準備をしてみた。
断っておくが、マトリョーシカを酢飯の上に乗せることではない。焼き海苔に巻くわけでもない。もちろん醤油もいらない。
あくまでもイメージ戦略である。

幸いなことに木の香には、お多恵とお澄という二人の優秀なデザイナーがいる。
プロ野球で言えば、二人で30勝は堅い剛腕エースである。
この二人がイベントに合わせて連投を重ね、ポスター、手拭い、ポシェット、トートバッグを製作。
この手拭いは、歌舞伎俳優が御用達の梨園染め、注染と言われる江戸時代からの技法で、1枚1枚を丁寧に手で刷っていく、たいへん手間のかかるもの。
良いモノにこだわる木の香の心意気と、二人のエースの見事な投球術を感じてもらいたいのである。



またポスターを壁という壁に、ナイアガラの滝のように四方八方に張り巡らし、ここがマトリョーシカ共和国だということを表現してみた。
お客様は入国したら、自分もマトリョーシカなのではと錯覚に迷い込み、この国の一員だと思ってもらいたい。ユートピアは意外に近くにあるのだと感じてもらいたい。



そのためマトリョーシカは、買付史上、最大数が、このイベントの為に取り揃えてみた。
いや数は正確にはわからないので、最大数の重量、150キロを買付けている。
これだけあれば、十分に棚から溢れ落ちる量である。寿司ざんまいも、腕組みして唸ってしまう数量である。

こういう話、普通はイベント前に書かなければならないのだが、連日ご来店いただいたお客様の感嘆の声を聞いて、つい内幕を明かした次第。

今日は土曜日。
阪急うめだ本店にお出かけになるお客様、広いフロアで、木の香が何処にあるのかわからないかもしれませんが、良く耳を澄ませてください。
10階で、声にならない歓声が上がっている場所が、木の香になります(笑)


(つづく)


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2017年8月 4日 (金)

第3話 阪急うめだ細腕繁盛記




長年の経験からいくと、木曜日はダレる曜日である。
週末にさしかかり疲れも溜まってくるが、あと1日働かなければならない。出来れば無理は控えたいと思う曜日なのである。
それは小売業にも表れていて、木の香でも木曜日は客入りは悪く、来られるお客様も何処となく覇気がないように感じられる。

だが大阪は違った。
さすが商業の街、大阪。うめだは華の都。
お客様の買い物に対する情熱がちがうし、眼の輝きがギラリとして曇りがない。
「マトリョーシカはロシアのもんかいな。よう遠いところから、ご苦労さんのこった」
「これマトリョーシカやろ?昔、うちのばあさんが持っとった」
「先日、ロシア旅行に行って、マトリョーシカ買うてきたのに、こっちの方が安いわぁ。損した〜」
独り言のように話し出すのだが、どう応対して良いのか解らず、それは残念でしたねと、NHKのニュース解説のように返すのが精一杯。ボケもツッコミもあったものではない。
たぶんこの独り言に上手く対応するのが、大阪で商売を成功させる第一歩であろう。



また以前、筋金入り関西女子のBさんに
「関西のおばちゃんは、眼に入ったものや思ったことは、口に出さないと落ち着かないんや」
とご教示してもらったがあり、それが現実として目の前で繰り広げられている。
まさに実地研修である。
「これマトリョーシカやな」
「マトリョーシカです」
「これ中からポコポコ出てくるんやろ?」
「ポコポコと出てきます」
「うわぁ、まだ出てくるん」
「出てきます」
「こんなもん、よく作るなあ」
「本当によく作りますねぇ」
これでは接客のイロハどころか、言葉を覚えたてのオウムである。
こんな対応ではBさんに
「ちょっとぐらい気の利いた対応しないと、東京の人はツンとして格好つけていて、イケ好かんわと、言われるで」
と叱咤されること間違いない。




ただマトリョーシカの魅力は、次から次へと出てくる入れ子であって、老若男女問わず、子供のように目をキラキラさせて、まだ次があるのかと見つめてくれるのが、ロシア買付に東奔西走した者として、何よりも嬉しい。至福の時である。
永遠に開けられるマトリョーシカがあったら、この至福の時も終わりなく続くのだと、つい思ってしまう。
「まだまだ出てきます」
とドヤ顔で言ってみたい。
「まだあるんかいな。マトリョーシカが、こんなケッタイなモンだと知らんかったわ。わかったから、もう堪忍してや」
と言われてみたい。


(つづく)

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2017年8月 3日 (木)

第2話 阪急うめだ細腕繁盛記





オープン初日。
デザイナーのお多恵、番頭のお志乃、ロシア通のチェリパシカ氏と私の4人で、お客様を迎えることになる。
オープンを告げる音楽が、店内に流れると、一同にキリッと緊張感が走る。沸々と何かが始まる予感がして、個人的には好きな時間である。

オープン直ぐに、コレクターのお客様が来店。この日を楽しみに来られたようで、300体以上のマトリョーシカのお出迎えに、思わず歓声が上がる。
「すごい!こんなにたくさんのマトリョーシカ並んでいるの、初めて見た‼︎」
「選ぶの迷ってしまいそう(^-^)」
ロシアの深層部へ買付に行く自分にとって、この言葉が一番嬉しい。自分が買付で迷うように、お客様にも迷ってもらいたいのである。悩んでもらいたいのである。



「この地球儀マトリョーシカの作家さんは、70歳を越えているのに、Facebookが大好きで、よく自分の作品をアップするモダンお爺ちゃんなんですよ」
「この工房のマトリョーシカは3個目以降は、福笑いみたいな顔になります」
「この作家は酔っ払うと、自分が鳥になったと思うみたいで、先日も4階から飛び立ちました」
ついつい私も説明に気合いが入ってしまう。
そしてお客様が気に入って買われると、嬉しい気持ち半分、嫁入りする娘を思う父親の気持ち半分という複雑な心境になってしまう。
いろいろあって買付したマトリョーシカが貰われていくと、尚更である。
「幸せになるんやで〜」
遠くを見る目をして、エセ関西弁で見送る自分がいる。




また初日ということで、関西に住む友人、知人が顔を出してくれた。その気持ちが何よりも嬉しい。
「なあ、お志乃。タカラという字は、ひとつ屋根の下で出会うこと、一期一会。友と人生を過ごすことや。だからウ冠に生きると書くんやな。まさにこの時間やで」
と夫婦善哉風にひとりごちに呟くと、お志乃は呆れた顔でこちらを見る。
「お言葉を返すようですが、タカラという字は、ウ冠に玉だと思うんですが」
「そうか。そんな字もあったなァ」
アカシアの雨に打たれて、このまま死んでしまいたい。
だが梅雨は明けてしまった。街路では関東にはいないクマゼミが、喧しく鳴いている。

(つづく)


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2017年8月 2日 (水)

第1話 阪急うめだ細腕繁盛記



いよいよ、今日から阪急うめだ本店での企画展が始まる。
本社が大阪市浪速区にあるゆえ「故郷に錦を飾る」ような気分であるが、果たしてロシア雑貨が関西人に受け入れられるか、不安が募るばかり。私が知る限りでは、大阪にロシアを専門に取り扱っている雑貨屋はない。

「このマトリョーシカって、何に使うねん?」
「ただ飾るだけの人形が、こないしますの?」
と想定される質問を思い浮かべては、その模範解答を考えている。
というのも、木の香をオープンした当初、会社の同僚と顔を合わせる度に、同じような質問ばかり受けていたから。
おかげで関西人は、用途がはっきりとしないものは無用に等しいという思考回路だと、見る見るうちに刷り込まれてしまった。
偏見極まりないが、マトリョーシカを並べる度に、その同僚の言葉が思い出されて、つい苦虫を潰したような顔になってしまう。



今回の『スークの好きなモノ縁日』と題された企画展。この中央街区を覗くと、埴輪、多肉植物、招き猫とマニアックな雑貨ばかりを扱っている店が軒を連ねている。
それもディープなマニア様をも唸らせる極上のレア物もあり、門外漢であっても興味をそそられる物ばかり。
「誰が買うの?」とツッコミを入れたくもなるが、それはお互い様、他人様、恵比寿様。
マニア様を唸らせなければ、この稼業を続けることはできない。
この世知辛い世の中を渡っていけない。

そして小心者の私は、それら逸品がずらりと並んだ他店を眺めるうちに、果たしてうちの品揃えは、マニア様の心を躍らせることができるか、不安の虫に押し潰されそうになる。
苦虫、不安の虫と、どうも私の周りには様々な虫が飛び交っている。



「これだけ、ディープな専門店ばかり集合するなんて、さすがデパートの企画ですね。エネルギーが湧いてきました‼︎」
と番頭のお志乃が嬉々として言い放つ。
お志乃の辞書には、マイナス思考という言葉はない。いつも前を向いて生きている。
「そうやなぁ。泣いても笑っても、10時からが本番や」
と如何にも東京出身者が言いそうなエセ関西弁で応えてみる。そして言った瞬間、恥ずかしくなり、棚の上を掃除するフリ。
泣いて終わるのならば、笑って終えたほうがいい。もう船出は迫っている。
ここは肝を据えて、男ならばやり遂げなければならぬ。

(つづく)

8月 2, 2017 展示会情報, 店主のつぶやき | | コメント (0) | トラックバック (0)