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2017年8月 3日 (木)

第2話 阪急うめだ細腕繁盛記





オープン初日。
デザイナーのお多恵、番頭のお志乃、ロシア通のチェリパシカ氏と私の4人で、お客様を迎えることになる。
オープンを告げる音楽が、店内に流れると、一同にキリッと緊張感が走る。沸々と何かが始まる予感がして、個人的には好きな時間である。

オープン直ぐに、コレクターのお客様が来店。この日を楽しみに来られたようで、300体以上のマトリョーシカのお出迎えに、思わず歓声が上がる。
「すごい!こんなにたくさんのマトリョーシカ並んでいるの、初めて見た‼︎」
「選ぶの迷ってしまいそう(^-^)」
ロシアの深層部へ買付に行く自分にとって、この言葉が一番嬉しい。自分が買付で迷うように、お客様にも迷ってもらいたいのである。悩んでもらいたいのである。



「この地球儀マトリョーシカの作家さんは、70歳を越えているのに、Facebookが大好きで、よく自分の作品をアップするモダンお爺ちゃんなんですよ」
「この工房のマトリョーシカは3個目以降は、福笑いみたいな顔になります」
「この作家は酔っ払うと、自分が鳥になったと思うみたいで、先日も4階から飛び立ちました」
ついつい私も説明に気合いが入ってしまう。
そしてお客様が気に入って買われると、嬉しい気持ち半分、嫁入りする娘を思う父親の気持ち半分という複雑な心境になってしまう。
いろいろあって買付したマトリョーシカが貰われていくと、尚更である。
「幸せになるんやで〜」
遠くを見る目をして、エセ関西弁で見送る自分がいる。




また初日ということで、関西に住む友人、知人が顔を出してくれた。その気持ちが何よりも嬉しい。
「なあ、お志乃。タカラという字は、ひとつ屋根の下で出会うこと、一期一会。友と人生を過ごすことや。だからウ冠に生きると書くんやな。まさにこの時間やで」
と夫婦善哉風にひとりごちに呟くと、お志乃は呆れた顔でこちらを見る。
「お言葉を返すようですが、タカラという字は、ウ冠に玉だと思うんですが」
「そうか。そんな字もあったなァ」
アカシアの雨に打たれて、このまま死んでしまいたい。
だが梅雨は明けてしまった。街路では関東にはいないクマゼミが、喧しく鳴いている。

(つづく)


8月 3, 2017 店主のつぶやき展示会情報 |

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