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2016年11月24日 (木)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(21)

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ウォッカの飲み方の作法は、意外と難しい。水で割らず、何も足さず、生で一気に喉元に流し込むというものである。
ショットグラスを前にして躊躇してはいけない。眼を瞑り、天を仰いでグラスを空にしてしまえば、そのあとに来る五臓六腑から湧き上がってくるウォッカの香りを楽しむだけで良いのである。
本来、ウォッカは無味無臭なお酒なのだが、それでは単に濃度が高いアルコールを呑んでいるようなもので、愛飲家としては、ちっとも面白いことはない。そこで草木のエキスなどで香付けをして工夫を凝らす。
ただある程度の予算を出さないと気品ある香がするウォッカに巡り合えず、安物のウォッカとなると、そういうわけにはいかない。
アルコールの強い刺激が喉を責めたててくるか、ガソリンのような油臭い匂いがツンと鼻先についてくるだけである。

 

もしロシアを旅することがあったら、少し奮発して、佇まいがきっちりとしたウォッカを呑まれることをお勧めする。
規格として認められているウォッカのアルコール度数は40度と決められていて、その中で味覚や舌触りを各メーカーは競っていて、愛飲家の飲みたいという欲望だけを満たすだけの安ウォッカは、いくら飲むのが好きな私でも、口元にグラスを近づけただけで敬遠してしまうほど。その一度の経験で、ウォッカ憎けりゃロシアまで憎いという気持ちが芽生えのを懸念するからである。
ウォッカを嫌いになっても、ロシアは嫌いにならないでください。

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それではコロトコフ大司教が持ってきたウォッカは、どのランクに値するウォッカなのかというと、一般人が口にするができない特別な品物だったのである。
蔵元限定品といえばそう表現できるし、選ばれし者だけが楽しむことができる秘蔵の品といえば、そうとも言い切れる。手にしているボトルのラベルにはブランデーで名高い「CAMUS」と銘打ってある。
客人をもてなすために高級ブランデーの封を開けるとは、田舎に住む伯父さんみたいだと感心していると、大司教は、さらに2本持ってくる。
ひとつは未だ聞いたことのないウィスキーの銘柄と、もうひとつは日本酒の五合瓶のようなほっそりとした透明の瓶で、なかには濁った紅茶のような液体が入っている。
私がこれは何の飲み物かと訊くと、大司教はそれぞれの瓶を指差して
「これがキノコ、これは白樺、これは香草」と満足げに言い放った。

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この茶色の液体がキノコ?いまひとつ解せないままに瓶を眺めていると、チェリパシカ氏が、このお酒すべてが自家製ウォッカ、ロシア語で言うところのサマゴンだと耳打ちしてくれる。
これがソビエト末期、酒の販売が制限されたときに、各家庭で工夫を凝らしてつくっていた伝説のサマゴンかと、ひとりごちになり、物不足の頃だったせいで、砂糖や大麦だけでなく、靴墨でつくっていたという強者もいたらしいと、昔読んだ本を思い出して薄笑いを浮かべていると、大司教はお酒を前にして悦に入っているのかと勘違いをし、私に向かって親指をたてた。

 

「ひとり1本がノルマだから、今晩は楽しくやろうぜ!」

 

あぁ、酒宴の幕は、あっさりと開けたのだ。

 

(店主・YUZOO)

 

11月 24, 2016 海外仕入れ |

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