« 買付おやぢはセミョーノフをめざす(17) | トップページ | 買付おやぢはセミョーノフをめざす(19) »

2016年9月 6日 (火)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(18)

Img_8876

さて旅の疲れを癒すのに古今東西に共通するのは、やはり風呂である。
そこで男四人で庭先にあるバーニャに向かう。
バーニャの重い木の扉には「バーニャには入れば、上下関係も何もない」と書かれている。つまりはロシア版、裸の付き合いを記している。
このバーニャがいかなるものかというと、スチームサウナと同じで、釜で焚かれた水が蒸気となって部屋を暖め、木造小屋のため、その湿気を吸い込んだ香りで、少し苔むした森にいるような穏やかな気分になる。
ただ空気を循環させる装置がないので、上部は息苦しいほど熱いのだが、下は川面のように涼しい。もちろんテレビが設置してあるわけもなく、我慢比べの12分の時計もない。
裸電球がひとつぶら下がっているだけである。

Img_8933


そのほの暗い密室のなかで、下っ腹がだいぶ出た色白い身体が、サウナ帽を被って、熱さにひいひい、はあはあと言いながら、脂汗をかいている。傍から見たら動く四つの脂肪の塊、もしくは草臥れた四匹の豚にしか映らないだろう。

「どうだい?気持ちいいだろう」

「気持ちいいねえ」

「やはり夏はバーニャに限るね。日本にもあるのだろう?

「あるけれど、個人宅では持っていないよ。持っているのは金持ちだけだ」

「ということは、ロシア人はみんな金持ちだな」

そんな他愛のない会話をしていると、コブロフさんが、おもむろに立ち上がってヴェニク(白樺の葉と枝を束ねたもの)を手に取った。
いよいよ来た。バーニャ特有の神聖なる儀式、健康な身体になるための試練である。
チェリパシカ氏と私は、すでにの煌々と熱くなった最上段に寝かされるや、釜の扉が開かれ、白樺のエキスが入ったお湯が注がれる。
とたんに大量の水蒸気が放射され、その熱気で思わず息をぐっと呑んでしまう。
たまったものではない。水蒸気は百度近い。火炎の水である。。
背中を熱風が通り過ぎると、今度は水蒸気が熱を大量に含んだ雨となって身体全体に降り注ぐ。
そして一瞬白樺のエキスが鼻先をくすぐり夢心地になったのも束の間、今度はヴェニクの鞭が背中をバシッと小気味よい音で振り落とされる。

Img_8789
○×ДЙ△!!

β×Жα△!!!!

神様へ感謝の言葉など出るわけがない。
チェリパシカ氏も虚脱したまま、放心状態である。
ただ身体中の血流が水門が開くかのように澱みなく流れ出し、健やかに身体中を巡っているのを感じる。少々手荒いが健康で丈夫な体をつくるためなのだ。
ただこの聖なる儀式で痛感するのは、人が熱さを猛烈に感じるのは、空気が揺れ動いたとき、つまりヴェニクが風を切り背中を叩いた瞬間、背中が痙攣してしまいそうなほど熱いのだ。背中に地獄絵図を彫られているようなものである。

 Img_8846
さて一連の儀式が終わり、晴れて屋外という娑婆に出て、夕暮れ時のロシアの大地を駆け抜ける風にあたると、新しく肉体も生命も変わったようで、実に晴々としている。
そしてバーニャに入る前に用意していたビールで喉を潤す。
このビールは生温くて、居酒屋ならば店主に一言を苦情言ってしまいそうな代物だが、この時ばかりは極楽浄土の飲み物ように、ありがたく感じたのである。極楽は意外に身近な場所にある。

 

※ヴェニクで叩かれているおやぢ連中の写真は、倫理的に問題があるのでロシアで見つけたぬいぐるみの画像に自主的に変更しました。

 

(店主YUZOO)

9月 6, 2016 海外仕入れ |

コメント

コメントを書く