買付おやぢはセミョーノフをめざす(11)
そのあとスキューバーダイビングの愉しさについて
熱く語るうちにユーリーさんは、今度小笠原を再訪するときは、
みんなで一緒に行こうと言いだしはじめた。
小笠原は天国に一番近い島である。
穢れのない無垢の海である。
小笠原の伝道師として、
その想像を絶する美しさについて説いていく。
しかし言葉が熱気を帯びるものの、
私はその熱さがコブロフさんやチェリパシカ氏に
伝染しなければと祈るばかりだった。と言うもの、
私は金槌がおもりを背負っていると断言していいほど、
水泳は大の苦手なのである。
河童の遺伝子は流れていないのである。
ふと作業場の隅に目をやると、試作のチェブラーシカが、
窯に入れられる前の状態で置いてある。
大きさは20cmほどで、ユーリーさんの筆ならではの
愛くるしさとユーモアに満ちている。
来年の買付の際には完成品を拝むことができるかと思うと、
大海で溺れている自分の姿も忘れ、少し気分も和んだ。
世界の海を潜るのを生涯の趣味とし、
仕事は遮二無に作品づくりに没頭する。
コブロフさんもそうなのだが、私が知り合うロシア人は、
仕事と遊びのバランスが絶妙で、気持ちの切り替えが上手く、
人生の楽しみ方を熟知している。
比較すると、私は仕事の比重が大きく、バランスが悪い。
残念ながらロシア人にはなれまい。
(店主YUZOO)
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