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2015年7月31日 (金)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(5)

 

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硬いシートにお尻が悲鳴をあげそうになった頃に、

グジェリ駅に到着。陶器で有名なこの町は、

ダビドボの近くにある。

 

今回、この駅で待ち合わせにしたのは、

ロシアにいるからには何でも買付してやろうという

商売人魂がそうさせたと言いたいところだが、

電車のダイヤの関係で、

程よい時間にダビドボに着く電車がなかっただけである。

 

グジェリ来るのは今回で3回目。

当然のことながらモスクワ市内で買付するより価格は安く、

知られていない作家作品を見つけることができるのが、

大きな魅力ではある。

あと運がよければ、製作現場を見ることもできる。

自然と心が躍るのも無理もない。

 

 

しかし駅は白樺林を切り拓いたような、

駅舎もなく荒涼としていて、

まっすぐに伸びた線路が唯一の人工物で、

活気もなければ生活もない。

『千と千尋の神隠し』の鉄道駅みたいな

殺伐した感じとでも言おうか。

 

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日本人的な感覚からすれば、

陶器で名を馳せた町となると、

益子焼や瀬戸焼、備前焼などを想像し、

駅前にはシンボルとなる巨大な焼き物が出迎えて、

土産物屋が立ち並び、無料送迎バスで中心部にいくと、

販売所と休憩所の呼び込みで市場のような活気に溢れ、

絵付け教室や陶芸教室も満員御礼の盛況で、売り手も

買い手も満面の笑みで包まれているのを想像するだろうが、

グジェリといえどもロシア。

駅前は土産物店どころか駅員すら見かけない。

もちろんゆるキャラの出迎えは遠い未来になりそうである。

雨でぬかるんだ道に足をとられないように注意しながら、

駐車場まで歩くだけである。

 

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「久しぶり。元気にしていました?

「すべては問題ないな。しかし俺の勘はすごいだろう。4両目に乗っているとぴったりと当てたのだから」

「コブロフさんには、神がそばにいるね。きっと。ところでこの辺りは雨が降ったのですか?

「明け方にすごく降ったよ。雷も鳴っていたし。ただロシアではよくあることさ」

 

ロシアの親戚コブロフさんと再会は、

感動の再会という雰囲気はなく、

毎年帰省する日本で暮らす従兄弟を迎えに来たという、

とても馴染んだもの。

 

コブロフさんはホームの4両目で出迎えたことにご満悦で、

今日は何か良いことが起きると興奮しきり。

この感じだと、

今晩のパーティが今から楽しみだと独りごちになっている。

コブロフさんが最近買ったばかりの韓国製の車に乗り込むと、

街道沿いの直営店へとむかった。

 

チェリパシカ氏はなぜ韓国車を選んだのだろうと、

エンジンを聞きながら厳冬期に耐えられるのかと、

心配性の性格を露わにしている。

わたしも今晩のパーティで予想外のことが

起こりそうな気がして不安になり始めたところだった。

 

 

今回もロシアで撮影した写真ですが、

本文とは関係ないです。トホホ

 

 

(店主YUZOO)

 

7月 31, 2015 海外仕入れ | | コメント (0)

2015年7月24日 (金)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(4)

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乗客が減り田園風景のなかを電車が走るようになると、

物売りも顔を見せなくなり、車内は静寂に包まれる。

ロシアの短い夏を楽しむかのように、

木々は鮮やかな緑を放ち、草原はどこまでも続く

若草色の絨毯である。

 

たとえ車窓の景色から目を5分離したところで変化はなく、

静止画像のように緑のままである。

いつかシベリア鉄道で

ウラジオストックからモスクワまで旅することがあったら、

夏の原野を眺めながら、取るに足らないことを夢想し、

ゆっくりと行こうと思う。

 

冬の雪と氷に閉ざされた荒野を一週間も見せられては、

精神薄弱なわたしは耐えられず、昼から酒を飲んでは、

夢と現実のあいだを往き来することになりかねない。

大げさに言えば、

ロシアの列車旅はこの悠久なる時間と不変なる景色に、

いかにして向き合える精神を

持つかにかかっているのではないか。  

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シベリア鉄道が華やかな頃、

この鉄道でモスクワやヨーロッパを

目指した文士や芸術家がいたが、

多くの人々は、モスクワに着いてから、

パリに着いてからのことばかりを考えて、

この時間に飲み込まれないようにしていたにちがいない。

わずか一時間半ていどの電車であっても、

景色と時間に倦んでしまうのだから、ロマンチックに

時を忘れてシベリア鉄道の旅と洒落込むのは、

所詮わたしには不相応の絵空事なのだろう。

 

硬いシートにお尻が悲鳴をあげそうになった頃に、

グジェリ駅に到着。

陶器で有名なこの町は、ダビドボの近くにある。

今回、この駅で待ち合わせにしたのは、

ロシアにいるからには何でも買付してやろうという

商売人魂がそうさせたと言いたいところだが、

電車のダイヤの関係で、

程よい時間にダビドボに着く電車がなかっただけである。

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グジェリ来るのは今回で3回目。当然のことながら

モスクワ市内で買付するよりも価格は安く、

知られていない作家作品を見つけることができるのが、

大きな魅力ではある。

あと運がよければ、製作現場を見ることもできる。

自然と心が躍るのも無理もない。

 

※今回もロシアで撮影したものですが

 本文とは関係ないです。何だかねえ。

 

(店主YUZOO)

7月 24, 2015 海外仕入れ | | コメント (0)

2015年7月19日 (日)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(3)

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電車がモスクワ郊外に出ると、様々な物売りが現れて、

日本のテキヤのような見事な口上で、歯ブラシや

三色ボールペン、毛玉取り器などを売りつけにかかる。

テキヤは男も女も、老いも若きもいて、

擦り切れた鞄からから百円ショップで

販売しているような駄物を、

言葉巧みにその効力や利便性を述べるのだが、

ロシア語が理解できないわたしでも、

興味深く聞いていられる。

 

ロシア語が詩のように韻を踏む特徴があるせいか、

とても音楽的に聞こえるからかもしれない。

このテキヤの口上は、点数でいくと音楽面60点、

演技面65点、風貌面70点で、総合点65点とか

テキヤ評論家になるのも一興で、

車窓にあまり変化がないゆえ時間潰しにはなる。

あと勝手にアフレコをするのも面白い。

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「おれの会社は先日倒産しちまってね。給料代わりにくれたのが、この歯ブラシさ。どうかしているよ、まったく。親愛なる紳士淑女のみなさん。そんな会社でも、この歯ブラシだけは大したもので、全ヨーロッパ歯ブラシ品評会で金賞を獲った優れものさ。なにしろ、毛の植えつけ方が、渦巻き状になっていて、しかもどの角度から歯を磨こうと、ちゃんと歯茎をマッサージするようにできている。おれはこの歯ブラシのおかげで、虫歯もなければ、歯茎から血がでたこともない。至って健康そのもの。

そんな優れものの歯ブラシが3本で、なんと100ルーブル!!

これはロシアが全世界に誇れる大発明ですぞ!!

理解していただけましたか。みなさん!!

あの薄らトンカチの息子が会社を引き継がなければ、この歯ブラシでロシアは世界から賞賛を受けることは、間違いなかったのだ!」

 

このなかで実際にわたしが理解できたロシア語は、

悲しいことに歯ブラシと3本で100ルーブルのみ。

それ以外はわたしのなかの6番目の耳が聞き取ったもの。

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販売していた中年男は、

額が禿げ上がってMの文字をかたどり、

肌の一部になったような薄汚れたシャツを着ていて、

生活苦が人生を水浸しにしてしまっている風貌。

その風貌とは裏腹に朗々ととおる声で、

歯ブラシの口上を朗々と語る様が、

田舎芝居のミュージカルを聞いているようで可笑しい。

 

ついつい小銭をポケットから出して買い求めたくなるのだが、

まわりを見回すと男がこの場所に存在していないかのように、

車窓を眺めたり、携帯電話を凝視したりしている。

 

男もこの道何十年のしたたかさが、

樫の老木のように根を張っていているのか、

乗客に買うそぶりがないと察知すると、

早々に次の車両へと移っていく。

未練など最初から持ち合わせていない。

 

※ロシアで撮影したものですが、

 今回も写真は本文とは関係ありません。

 

(店主YUZOO)

 

7月 19, 2015 海外仕入れ | | コメント (0)

2015年7月14日 (火)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(2)

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セミョーノフまでの旅は、前日にコブロフさん

の住むダビドボまで向かうことから始まる。

モスクワとダビドボは100キロぐらい離れていて、

時間の節約を考えると、

モスクワ郊外に行くのは車を使わずに、

公共交通機関を使ったほうが合理的である。

 

 

モスクワ中心部は、

泣く子も泣き疲れて寝てしまうほどの慢性的な渋滞で、

それを避けるためには地下鉄を使って

鉄道駅もしくはバスターミナルに行き、

そこから中距離、長距離の乗り物に乗ったほうがいい。

 

そのほうが苛々した気分でモスクワ市内を眺めずに済み、

精神衛生上いいし、路面電車やトローリーバスのいったい

何処に向かっているのだろうと不安にかられることもない。

 

モスクワの地下鉄は、

ロシア語表記のみで旅行者につれない伴侶であるが、

路線図は色分けされているので、

何色の路線に乗れば良いかを頭のなかに入れておけば、

目的地につくことができる。

そして2、3分おきに来るので待ち時間にじれることもない。

ただロシア語がまったく読めないと逆方向に

乗車してしまう危険性があるが。

そう思うと、

今や何の躊躇もなく地下鉄を乗りこなすまでになったのだから、

この7年の畳の目を進んでいるカタツムリのような

成長をしている私のなかで、一番の進歩かもしれない。

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次に電車。モスクワのターミナル駅は

行き先ごとに異なっていて、東京駅のように、

とりあえずこの駅に着けば、東北でも関西でも九州でも

日本のあらゆる都市に行くことが可能という優しさはない。

駅名はベラルースカヤ、キエフスカヤという様に、

行き先の都市名になっているのが唯一の優しさなのだが、

地図上の位置関係が理解していないと、

全くちんぷんかんぷん。

キノコの分類学を聞いているような気分になる。

 

そして当然のことながら、

行き先もロシア語のみの表記なので、

どちらが目的地に向かうホームなのかを

判断しなければならないという難問も控えている。

幸いなことに、「○○行き」、「○○から」という表現は、

アルコールの河に流されることなく、

記憶の孤島に残っていたので、難なくクリア。

ロシア語の初歩を教えてくれたA先生に感謝である。

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電車は日本の規格とちがい広軌なので、

左右両側に3人ずつ座れるボックスシートでゆとりがある。

シートが硬いのが難点だが、

大きな小母様方がどっしりと腰を下ろしているのを見ると、

天然のクッションをお尻に備え付けているのだから、

そんなのは苦痛のひとつにも入らないのだろう。

 

不貞腐れたような面持ちで車窓を眺める様は

市井の哲学者のような貫禄があるし、

原色をつかった花柄の派手な服装は、

ハワイからの旅行者を思わせ、

小母様方を眺めているだけでも飽くことがない。

そして私たちと同じ東洋系の黄色い顔、

中央アジアの茶色い顔、北方の白く透明な顔と、

様々な血筋をひいた人が乗り込んでくるので、

ロシアが他民族国家だということに、

改めて気づかされることになる。

 

それゆえ私たちのことを好奇な目で品定めすることもない。

その点では妙な緊張感を強いられずにすむ。

 

(店主YUZOO)

 

7月 14, 2015 海外仕入れ | | コメント (0)

2015年7月 9日 (木)

買付おやぢはセミョーノフをめざす(1)

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パスポートを見返してみると、

ロシアに買付けに行くようになってから早や7年。

個人旅行を含めると、10回近く訪れているという

事実を知り、思わず愕然となる。

滞在日数を総計すれば3ヵ月あまり。

留学生ならば生活に支障がない程度に会話が

できるぐらいの日々が流れているのだが、

相変わらず聴く方は熊に耳を踏んづけられたまま、

話す方はやさぐれた九官鳥ていどの言葉数である。

 

この7年間、付け焼刃的に覚えては忘却し、

忘却しては反省し、継続は力なりと戒め、

またロシア語のイロハを覚え始めるの繰り返し。

日々の生活から変えなければ、

アルコールの河さえ渡らなければ、もっと先にある

豊穣な大地に辿り着けたのにと悔やむのである。

 

わたしには向上心というものが欠如している。

やれやれ。

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それでも歳月というのは深くて豊かな人間関係を、

すなわち友情を育むもので、

今年もコブロフさんの家族とナターシャさん、

それに日本から来たチェリパシカ氏と私の計6名で、

モスクワから500キロほど離れたセミョーノフ市で

開催される民族祭とマトリョーシカ工場へ

遊びに行くことになったのである。

 

コブロフさんの家族とはロシアに買付けに行った当初から

お世話になっていて、コブロフさんを通じて様々な

作家を紹介してもらい、私たちだけでは行けない

ロシアの深層部に連れて行ってもらったりした。

日本人が憧れるダーチャ(別荘)でひとときを過ごしたり、

バーニャ(サウナ)でロシア式健康法を

伝授してもらったのも、コブロフさんのおかげである。

 

 

「人生はお金を稼ぐために使うものではない。家族や友達と楽しく過ごすため使うものだ」

という理念のもとに生きているような人なので、

たとえ目的地が何千キロ離れていようと関係ない、

その旅程をみんなで楽しめば良いという考えが基本にある。

それなので私がパレフやマイダンに行きたい

と無理を言っても、嫌な顔をひとつせず、

旅程で必要な食べ物やお世話になる家への

お土産などたくさん買い込んで、

遠足前の小学生のようにウキウキと心躍らせている。

 

日本人が口にする

紋切り型のポジィテイヴ思考なんかでは測れない、

大陸の大らかさがコブロフさんには根っこにあるのだ。

わたしにとってはロシアに住む親戚といっても

差し支えないほどで、

ロシアの何に魅せられているのかと訊かれたら、

コブロフさんの人生観に

ロシアを感じるからだと言えるかもしれない。

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今回、一人娘のパリーナちゃんも一緒に行くことになった。

文字通り眼に入れても痛くないほどの可愛さで、

はにかみながら「ハリネズミは日本語で何と言うの?

と訊いてくる。この旅行のマスコット的存在。

車で10時間という長旅を

微笑みに満ちたものにしてくれる。

ロシアの子どもは、青く澄んだ大きな瞳、

白磁のようなきめこまかな白い肌、

きらきらと光に輝く金髪で、

じっと座っていると西洋人形と見間違えるほどである。

 

しかしロシアという国は子どもの躾に厳しいので、

公共の場で泣いたり騒いだりする子どもを見たことはないし、

どの子どもも家の手伝いを率先して行う。

それはマトリョーシカ作家さんの家だけでなく、

買付けで行くおもちゃ問屋しかり、

デパートや地下鉄しかりである。

 

こんなに可愛いい子どもが、

日本の家庭に生まれてきたら溺愛されて、

箸の持ち方ひとつ教えることすらできずに

大人にしてしまうのではないかと、

つまらない想像を膨らませてしまう。

 

 

ナターシャさんはモスクワの博物館で働いている、

ロシアの美術や民芸品に精通している女性で、

ロシア語しか話さないのに、

なぜか私たちとも無理なく意思疎通ができる、

コブロフさん同様にロシア的な大らかさに満ちた人。

身体のサイズもロシア的な大らかさで溢れている。

セミプロの写真家の顔もあるようで、

カメラを片時も離すことなく、日に何百枚も撮影している。

今回の旅行の写真をデータにして

プレゼントしてくれたのだが、

3泊4日の旅にもかかわらず、

700枚以上の写真が収められていた。

その身体とエネルギーに、いつも圧倒される。

 

そしてすべての問題は

何となく解決することができるというのが信条の、

お気軽が取柄の私たちふたり。

セミョーノフまでの旅行は、たとえて言うならば、

お盆で帰省する親戚一同という雰囲気。

 

旅、始まる。

 

(店主YUZOO)

 

7月 9, 2015 海外仕入れ | | コメント (0)