« 純情こけし東北めぐり旅(6) | トップページ | 在日という名の民間交流 »

2014年11月18日 (火)

バイカル湖憧憬

Photo


ロシアで一度訪れたい場所にイルクーツクがある。

まだ見ぬマトリョーシカがあるからではない。

バイカル湖を臨む町だからである。

 

 

 

 

世界一の透明度を誇る湖。

厳冬期にはエメラルド色に湖面が凍り

幻想的な景色を奏でる湖。

シベリアの真珠、バイカルアザラシ、固有生物の宝庫。

 

バイカルを見ずしてロシアの自然を

語るなかれと咎められても、反論はできまい。   

 

 

 

もし訪れる日がきた暁には、

ウラジオストクからシベリア鉄道に乗り、

紅顔の少年のように旅心が躍るのを愉しみながら、

ゆっくりとかの地に足を踏み入れたいものである。

 

この「白と青のバイカル」(NHK出版)という本、

1978年にNHK特集として放映された番組をもとに、

ルポルタージュとしてまとめたものである。

 

放映当時、ロシアの国家体制が今とは異なるため、

何をするにも官僚的、紋切型、横柄、複雑な手続き、

朝令暮改、二転三転の連続に、愕然として憤慨し、

最後に諦観するという定型文が

現れては沈んでいくのだが、現在と比べたところで、

椅子と机ほどのちがいにしか感じられないのは、

すでにロシアの流儀に慣れてしまったせいか。

あるあると、昔人気を博したテレビ番組のように、

静かに呟くだけである。

 

 

ただこの本の伝えたいのは、それが本意ではない。

バイカル湖の冬の白き風貌に自然の厳しさを知り、

夏の深緑の美しさにはっと息をのむ。

かの地で暮らしている人々には

何世代にも渡って継いできた知恵や文化があり、

うまく自然と調和しながら生活を営む術を知っている。

それは母の逞しさにあり、

父の罅割れた掌の厚さにある。

 

 

遠く東京から来た客人と料理をふるまい、語り合い、

ウォッカに酩酊し、一期一会を愉しむ様子から、

取材班はバイカルの自然をカメラで見つめると同時に、

片方の眼は人々との交流に向いていたのだろう。

そこに本意があったと見るべきである。

 

 

今から36年前ゆえ、

この本が伝えるバイカル湖の美しさは、

もう消えつつあるかもしれない。

 

 

 

ただ旅をすれば、

眼に飛び込んだものすべてが発見になる。

必ずや、たぶん。

まだ私の眼に濁りがなければ。

 

(店主YUZO)

11月 18, 2014 ブックレビュー |

コメント

コメントを書く