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2014年11月28日 (金)

在日という名の民間交流

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さすがにロシアは物不足で、

牛乳を買うにも半日並ぶんだってねと

訊く人はいなくなったが、

それでもロシアは不可解な国、

何を考えていのかわからない国と思っている日本人は多い。

 

 

ロシアに買付に行くようになって、早や7年。

マトリョーシカを通じて、一緒に産地をまわり、

ウォッカを鯨飲し、語らうことで得た友人も増え、

ロシアを第二の故郷と感じているだけに、

この現実は淋しいかぎりである。

 

 

一方ロシア人から見た日本の印象というと、

クォリティの高い製品を生み出す国、

ヘルシーな和食、礼儀正しい国民性、

エキゾチックで奥深さを秘めた伝統文化と、

きわめて好意的で、

悪い印象を抱いている感じは微塵もない。

 

 

実際に地下鉄のどの駅に降り立っても、

日本食レストランの看板が目に飛び込んでくるし、

日本の自動車や家電製品は絶対に故障しないと

信じているようである。

ただし製品はMade in Japanでないと駄目。

日本企業であっても海外工場でつくられたものは、

その安全神話の聖書から外れるらしい。

 

田中健之著「実は日本人が大好きなロシア人」

在日ロシア人15人に日本についての印象を率直に訊いた、

今までにない視点で

日露関係を見つめ直したユニークな本である。

だいたいロシアに関する書物は、

ほとんどが政治情勢を記したものばかりで、

一般のロシア人が

どう日本を見ているのかという本は皆無に近い。

 

また在日ロシア人が体験する

日本の風習や文化の違いを語る言葉に、

日本人ならば当たり前すぎて気にも留めなくなったものに、

日本の原石というべき大切なものが

潜んでいることに気づかされる。

諦観と閉塞に満ちた現代の日本社会に

一筋の光を与えてるかのようである

日本はそんなに悲観に暮れるような国ではないんだよと。

 

20世紀に2度も国の体制が変わった激動の国で、

生き抜いてきた民族の言葉である。重みがちがう。

 

著者はあとがきにこう記している。

《日露の民間交流こそが、日本とロシアを本当にいい友人として、またパートナーとして得るものだと私は確信している。お互いがよりよい信頼関係を築いて積み重ねてこそ、日露の複雑な政治的な問題の解決の糸口が見出せると信じている》

その言葉に深く共感する。

 

マトリョーシカ買付から始まったロシアとの付合いが、

今や商売の領域を越え、

精神性をともなった次元で

結びついていると感じるからである。

堅苦しく言えばネ。

 

ちなみにこの本に登場する在日ロシア人に

「木の香」とも縁の深いマトリョーシカ作家、

マリナ・ゴロヴェンコさんも、

日本について印象を述べています。

マリナさんは東日本大震災の支援ボランティアを

積極的にしていたんですね。

行動力があって、心優しくて本当に素敵な女性です。

改めて気づかされました。

 

(店主YUZO)

11月 28, 2014 ブックレビュー | | コメント (0)

2014年11月18日 (火)

バイカル湖憧憬

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ロシアで一度訪れたい場所にイルクーツクがある。

まだ見ぬマトリョーシカがあるからではない。

バイカル湖を臨む町だからである。

 

 

 

 

世界一の透明度を誇る湖。

厳冬期にはエメラルド色に湖面が凍り

幻想的な景色を奏でる湖。

シベリアの真珠、バイカルアザラシ、固有生物の宝庫。

 

バイカルを見ずしてロシアの自然を

語るなかれと咎められても、反論はできまい。   

 

 

 

もし訪れる日がきた暁には、

ウラジオストクからシベリア鉄道に乗り、

紅顔の少年のように旅心が躍るのを愉しみながら、

ゆっくりとかの地に足を踏み入れたいものである。

 

この「白と青のバイカル」(NHK出版)という本、

1978年にNHK特集として放映された番組をもとに、

ルポルタージュとしてまとめたものである。

 

放映当時、ロシアの国家体制が今とは異なるため、

何をするにも官僚的、紋切型、横柄、複雑な手続き、

朝令暮改、二転三転の連続に、愕然として憤慨し、

最後に諦観するという定型文が

現れては沈んでいくのだが、現在と比べたところで、

椅子と机ほどのちがいにしか感じられないのは、

すでにロシアの流儀に慣れてしまったせいか。

あるあると、昔人気を博したテレビ番組のように、

静かに呟くだけである。

 

 

ただこの本の伝えたいのは、それが本意ではない。

バイカル湖の冬の白き風貌に自然の厳しさを知り、

夏の深緑の美しさにはっと息をのむ。

かの地で暮らしている人々には

何世代にも渡って継いできた知恵や文化があり、

うまく自然と調和しながら生活を営む術を知っている。

それは母の逞しさにあり、

父の罅割れた掌の厚さにある。

 

 

遠く東京から来た客人と料理をふるまい、語り合い、

ウォッカに酩酊し、一期一会を愉しむ様子から、

取材班はバイカルの自然をカメラで見つめると同時に、

片方の眼は人々との交流に向いていたのだろう。

そこに本意があったと見るべきである。

 

 

今から36年前ゆえ、

この本が伝えるバイカル湖の美しさは、

もう消えつつあるかもしれない。

 

 

 

ただ旅をすれば、

眼に飛び込んだものすべてが発見になる。

必ずや、たぶん。

まだ私の眼に濁りがなければ。

 

(店主YUZO)

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