純情こけし東北めぐり旅(6)
「こちらが父の作品、これは私のつくったもの。まだ私は絵付けしかできなくで、木地はすべて父が削っているんです」
梅木工人はこけしづくりに専念して、
まだ1年を少し過ぎたほど。
駆け出しの自分を謙虚に受け止めていて、
説明する言葉の中に、父に対する、
いや師匠である父に対する畏怖にも
似た尊敬の念が感じられる。
原木から木地を削り出し、絵付けを施し、
道具から治具に至るまでのすべてを、
熟練の手でつくりあげる、父の姿に、
立ち振る舞いに、その背中に、
伝統を継いでいる重みを感じるのは当然だろう。
梅木さんは、こけし工人になる前は
外車の販売会社で働いていたそうである。
伝統と最新。木の肌触りと鋼鉄の輝き。素朴と豪奢。
まったく異なる世界に転身した梅木工人の決断力に、
今度は私たちが尊敬の念を抱いてしまう。
そしてこけしを愛する者にとっては、
途絶えることなく次の世代に継承された喜びも。
「この模様は重ね菊といって、咲き乱れる菊をイメージした伝統模様。こちらは梅ね。この伝統模様には、それぞれ名前がついているのよ」
「ちゃんと季節を感じるように描かれているんですね。すごいなあ」
「この伝統模様をこけしにではなくて、和紙に描いても面白いの。こけしの顔って穏やかだから、葉書にしたり、色紙にしたりすると、結構喜ばれるのよ」
「わかります、わかります。ありがたい感じがあって、色合いも綺麗だし」
「仏画とは違うからもらう方も困らない」
「私、仏画もらったら、飾るに困っちゃうな」
梅木工人とayumiさんは初対面だというのに、
すぐに打ち解けて、こけし談義に花を咲かせている。
女同士というのは初めて会った人でも、
すぐに何年来の友人のように接することができる
特別な本能があるに違いないと、昔から思っていた。
男同士だとそうはいかない。
最初の一言を交わすのに、かなりの時間を要して、
その会話の内容も景気や政治もしくは下半身の話で、
無理矢理に親近感を持たせようとする。
その会話からもれる枯れ果てた笑いは、
一緒に聞いている者にまで苦さが染み込んでくる。
なにゆえに男は会話が苦手なのか。
私の妄想的結論は、こうである。
原始時代から常に男は、
まず食べ物を探し与えなければならず、
近隣の村落とは戦うか、友好を保たなければならず、
同じ村落の仲間には何を考えているのか
腹の内を探らなければならず、
表向きは大志を抱かねばならず、
奥さんの機嫌を表情だけで見極めなければならず、
とにかく神経症になるぐらいに義務に追われている。
自分以外の他者というのは、
いつ寝首をかきに襲ってくるのか、
甘い言葉の裏には何があるのだろうかと、
終始怯え怖れおののかなければならない存在。
安易な発言は、相手の敵対心を煽ることになりかねず、
恨みを抱かれる原因になりかねない。
それゆえに景気や政治もしくは下半身といった
少し本筋を外した内容で、
相手の顔色をうかがうようになってしまった。
なるべく自分の感情を出さないようにと
細心の注意を払いながら。
それに比べて女性は、
自分たちの村落のコミュニティー維持を第一に考えるから、
他愛のない雑談も、ゴシップ的な噂話も、
ダメな旦那の悪口も、子どもを叱りつける言葉まで、
すべて女同士の仲間意識を確認するため、
絆を深めるの手段であり、深い真意もない。
まず話をすることが必要であって、
それほど中味は重要ではない。
男が理解しがたい雑談も、女性にとって必然なのである。
それに比べて男性は相手の素性を知ろうと会話をする。
そんなわけで、二人の楽しげな会話に上手く入れず、
眼を細めて好々爺然と微笑んでいた次第である。
ああ、余談が長すぎた。
(店主YUZO)
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