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2014年1月17日 (金)

純情こけし東北めぐり旅(3)

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気がつくと、既に12時をまわっている。

工房で流れる時と時計が刻む時は違うようだ。

次回、訪問する際は鳴子温泉で

一泊するぐらいの心の余裕がほしいと、

後ろ髪を引かれる思いで柿澤宅をあとにする。

 

次の訪問先は作並温泉の平賀輝幸さん。

平賀家は作並系こけしを代表する家系で、

輝幸さんはその8代目。150年続く名門の工房である。

ayumiさんの話によると、

平賀工人は何か悟りを開いたのではと

思うぐらい優しさと慈愛に満ちた人柄らしい。

 

天才肌の次は聖人である。

俗物かつ貧乏性の私には、実にハードルが高い。

晩秋の東北路のなかを走り抜けると、

四方を山々に囲まれた作並温泉郷の外れに、

一軒ぽつりと、こけしの絵を掲げた店があった。

 

!!!!!

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つげ義春が描く世界に迷い込んだような鄙びた佇まい。

喧、躍、騒、動、音がまったくない静寂の世界である。

煌々と輝く蛍光灯の下、たくさんのこけしが、

夕暮れに染まる店の外を見つめている。

つまり訪問客である私たちを、

切れ長の眼で見つめているのである。

こけしたちのざわめきに気がついたのか、

作業をしていた平賀工人は手を休め、私たちに一瞥する。

 

「こんにちは。綺麗なお店ですね」

 

「遠いところ、よく来てくださいました。今年、内装工事したからね。以前は、ちょっとひどかったから」

 

柿澤工人同様、

いっさいの自慢や見栄はなく、さらりと応える。

虚栄心が芽生えた途端に、

己の身に災いが起こるにちがいないと

怖れているかのようである。

 

こけし工人は則天去私に真の道があるのだろうか。

 

「工事をしたら謙次郎(平賀こけし6代目)のこけしが段ボールいっばいに出てきてね。持っているのもナンだから、とりあえず並べといた」

 

とアンティークこけし蒐集家には垂涎もの逸品が

無造作に並べられている。

しかも驚くほどの安価で。ものには執着しないというより、

それらの逸品を喜んで買い求めるお客の笑顔を見るのが、

一番の幸せと感じているようである。

 

やはり聖人である。

 

ちなみに謙次郎工人は、晩年まで木を削り、絵を描いき、

木に魂を宿らせるという作業を一貫してやり続け、

こけし作りに精進していたそうである。

平賀工人の話からも謙次郎工人の生き方を

理想としているのが、言葉の端々に感じる。

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「ところで、店の扉はいつも開けっぱなしなんですか?

 

と少し不躾な質問をすると、平賀工人は笑いながら応える。

 

「この時期、外は寒いからね。店のなかは温かいから、虫が暖をとりに入ってくるんだよね。カメムシはうちで冬を過ごすのが好きみたい。毎年、段ボールやサッシの隙間で、春が来るのを待っているよ」

 

「だから、この荷物にカメムシがいたんだ!

 

ayumiさんが思い出したように声を発した。

 

「やはり入っていたんだ。確認したんだけどね。ゴメン、ゴメン」

 

と朗らかに笑う。

 

虫も木も人も一緒。

冬が来れば誰もが寒いし、暖がほしい。

信仰も学問も経済も主義をも超えた、究極の真理である。

 

聖人は広く、深く、果てしなく、温かい。

ここでも時計が刻む時間とはちがう時が流れている。

 

(店主YUZOO)

 

1月 17, 2014 国内仕入れ |

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