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2014年1月28日 (火)

純情こけし東北めぐり旅(5)

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本日最後に会うのは、こけしの世界では珍しい女性工人、

梅木直美さんである。

梅木工人に会うのはayumiさんも初めてで、

お菓子を頬張りながら、心なしか車内に緊張が漂う。

ayumiさんは、どんな話をすればすぐに打ち解けられるか、

私はうら若き女性に会うからが理由であるが。

 

 

大概において私は、

どんな女性に美しさを感じるのかと質問された場合、

伝統工芸を継いでいる女性と答えるようにしている。

初対面の相手にはにかむ女性、子供をあやす母親、

スポーツで敗れて涙する女学生といった

一般的に好まれる仕草に、

それほど心を動かされることはない。

というより、なくなったと言うべきだろう。

 

すれっ枯らしの、

酒を飲むことしか楽しみがなくなった男は、

幾度も経験する挫折と諦観の果てに、

ようやく住む人もまばらな寒村に、

真の安らぎを見つけ出したような心境。

 

水に棲むナマズが、

ここも悪くないと思う心境と同じである。

 

その境地はなかなか理解されることはない。

その心持において、

こけしつくりを父親から受け継ぐと決めた

梅木工人の凛とした姿勢は、

絶対的な美しさに満ちているはずである。

緊張しない方がおかしい。

 

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約束の6時半に教えてもらった住所に着いたのだが、

完全なる住宅街で、

見渡しても木材置き場も工房らしきものもない。

時おり通過する車の音が、街中に響く程度で、

しんと静まり返っている。

 

住所を聞き違えたかと思い、

電話をすると、ほんの50m先で手を振る人がいる。

 

妄想癖が特技の私は、

築100年の茅葺き屋根の日本家屋に、

納屋には材木の山、

庭先には放し飼いのニワトリという光景が、

網膜に美しく投影されていたので、

玉手箱を開けても何も起こらない浦島太郎の気分。

 

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また梅木工人も眉間に皺の寄った厳しい風貌は微塵もなく、

笑顔の素敵な良家のお嬢様といった優しい顔立ちである。

 

私は下調べとして梅木工人のブログを拝見していたのだが、

この笑顔と文章から忍ばれる人柄が、きれいに一致する。

 

私の職人の世界=厳格な世界という連想は、

昭和のステレオタイプの典型で、

今は平成、もっと社交的で柔軟さがあるのだろう。

 

「遠いところ、わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

 

お仕着せがましさもなく、

さらりと言うのは東北人の特徴だろうか。

柿澤工人も平賀工人も、そうだった。

その言い方には、すっと心に沁みこんでくる温かさがあり、

一瞬にして会いに来て良かったという気分にさせる。

心が喜んでいるのがわかる。

 

(店主YUZOO)

1月 28, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月21日 (火)

純情こけし東北めぐり旅(4)

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気がつくと陽はとっぷりと暮れ、

店の灯りが、ほんのりと道を黄色く照らしている。

 

ついつい長居をしてしまったようで、

そろそろお暇しようとすると、

店の奥から平賀工人のお母さんが、

コーヒーを淹れたので飲んでいきなさいと言う。

 

ひと目見て、世話好き、話好き、

人が好きとわかる煌々とした笑顔に、

なぜかロシアのお婆ちゃんを思い出す。

 

お婆ちゃんの人に対する包容力。

母親の子どもに対する無限の優しさ。

それが無ければ、この世界は、

とうの昔に滅んでいたにちがいない。

間違いない。

 

 

 

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「お腹が空いているのなら、御握りでも持っていく?」

と何の違和感もなく自然と口にする言葉に、

年のせいだろうか、つい目頭が熱くなる。

 

「遠くから来ていただいたのに、何もなくてねぇ」

とこの言葉も何ら作為もない滑らかな自然体。

 

今晩は、早々に仕事を切り上げて、

作並温泉に一宿もうけようか。

平賀こけしの150年におよぶ歴史に傾けながら、

郷土料理や地酒に舌鼓を打つことができたら、

どんな至福の時を過ごせるのだろう。

 

ふと脳裏をよぎったのだが、こちらはお金も、

心のゆとりさえないもない貧乏旅行。

さらに山形市まで足を延ばさなければならない。

 

「これから山形市まで行くの?」

平賀親子は飽きれたような顔で私たちを見つめたが、

すぐに「道中お腹が空くだろうから食べてね」と、

たくさんのお菓子を手渡される。

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本当に申し訳ない。

すべては心に巣をつくっている貧乏性のせい。

ゆとり教育を受けていない者の根底にある

パブロフの犬的条件反射。

高度成長期の詰め込み教育のせいで、

時間一杯に仕事を入れないと落ち着かない哀しき性。

 

心のなかで、深く詫びながら、

柿澤工人宅同様に後ろ髪をひかれる思いで、

作並を後にした。

 

 

 

 

 

※話が弾んでしまい写真を撮るのを忘れてしまいました。

 

平賀こけし店のHPより拝借しました。

 

 

(店主YUZOO)

 

 

 

1月 21, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月17日 (金)

純情こけし東北めぐり旅(3)

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気がつくと、既に12時をまわっている。

工房で流れる時と時計が刻む時は違うようだ。

次回、訪問する際は鳴子温泉で

一泊するぐらいの心の余裕がほしいと、

後ろ髪を引かれる思いで柿澤宅をあとにする。

 

次の訪問先は作並温泉の平賀輝幸さん。

平賀家は作並系こけしを代表する家系で、

輝幸さんはその8代目。150年続く名門の工房である。

ayumiさんの話によると、

平賀工人は何か悟りを開いたのではと

思うぐらい優しさと慈愛に満ちた人柄らしい。

 

天才肌の次は聖人である。

俗物かつ貧乏性の私には、実にハードルが高い。

晩秋の東北路のなかを走り抜けると、

四方を山々に囲まれた作並温泉郷の外れに、

一軒ぽつりと、こけしの絵を掲げた店があった。

 

!!!!!

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つげ義春が描く世界に迷い込んだような鄙びた佇まい。

喧、躍、騒、動、音がまったくない静寂の世界である。

煌々と輝く蛍光灯の下、たくさんのこけしが、

夕暮れに染まる店の外を見つめている。

つまり訪問客である私たちを、

切れ長の眼で見つめているのである。

こけしたちのざわめきに気がついたのか、

作業をしていた平賀工人は手を休め、私たちに一瞥する。

 

「こんにちは。綺麗なお店ですね」

 

「遠いところ、よく来てくださいました。今年、内装工事したからね。以前は、ちょっとひどかったから」

 

柿澤工人同様、

いっさいの自慢や見栄はなく、さらりと応える。

虚栄心が芽生えた途端に、

己の身に災いが起こるにちがいないと

怖れているかのようである。

 

こけし工人は則天去私に真の道があるのだろうか。

 

「工事をしたら謙次郎(平賀こけし6代目)のこけしが段ボールいっばいに出てきてね。持っているのもナンだから、とりあえず並べといた」

 

とアンティークこけし蒐集家には垂涎もの逸品が

無造作に並べられている。

しかも驚くほどの安価で。ものには執着しないというより、

それらの逸品を喜んで買い求めるお客の笑顔を見るのが、

一番の幸せと感じているようである。

 

やはり聖人である。

 

ちなみに謙次郎工人は、晩年まで木を削り、絵を描いき、

木に魂を宿らせるという作業を一貫してやり続け、

こけし作りに精進していたそうである。

平賀工人の話からも謙次郎工人の生き方を

理想としているのが、言葉の端々に感じる。

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「ところで、店の扉はいつも開けっぱなしなんですか?

 

と少し不躾な質問をすると、平賀工人は笑いながら応える。

 

「この時期、外は寒いからね。店のなかは温かいから、虫が暖をとりに入ってくるんだよね。カメムシはうちで冬を過ごすのが好きみたい。毎年、段ボールやサッシの隙間で、春が来るのを待っているよ」

 

「だから、この荷物にカメムシがいたんだ!

 

ayumiさんが思い出したように声を発した。

 

「やはり入っていたんだ。確認したんだけどね。ゴメン、ゴメン」

 

と朗らかに笑う。

 

虫も木も人も一緒。

冬が来れば誰もが寒いし、暖がほしい。

信仰も学問も経済も主義をも超えた、究極の真理である。

 

聖人は広く、深く、果てしなく、温かい。

ここでも時計が刻む時間とはちがう時が流れている。

 

(店主YUZOO)

 

1月 17, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月12日 (日)

純情こけし東北めぐり旅(2)

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鳴子温泉駅を過ぎて小高い丘を登りきったあたりに、

柿澤さんの店舗を兼ねた家が見える。

質素な佇まいは、

地元にしっかりと根付いた生活を感じる。

 

私たちが到着したことに気が付くと

柿澤さんは母屋から出てきてくれた。

「遠いところ、ご苦労さんです。それと覆面マスクありがとね」

近所の親しいお兄さん風な話ぶりは、

着飾らない性格というのか、

私の思う天才肌のイメージではない。

 

 

というか、第一声が覆面マスクへの

感謝の言葉のほうが気になる。

東北プロレス巡業の話だろうか。

もしくは新作こけしの話だろうか。

 

その後もayumiさんと柿澤さんの

覆面マスクについての話は続き、

柿澤さんの息子がマスクに興奮していたこと、

初めてつくったマスクの裏話など、

話題は蚊帳の外であるが、

1年ぶりに里帰りしたようで心が和む。

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ふと棚に並んだこけしに目を向けると、

伝統こけしが凛とした姿勢で並び、

その横には毛糸帽や麦わら帽子をかぶった可愛らしい

少女こけしが澄ました顔でこちらを見ている。

その愛くるしさに思わず私からも微笑みを返してしまう。

 

 

「このこけし、可愛いですね」

と話を向けると、

「これ、つくるのが面倒で、数多くはできないんだなあ」

と飄々と柿澤さんは応える。

自分の作品について多くを語らないところが、

天才肌の工人たる由縁かもしれない。

 

 

その後、柿澤さんのお母さんが淹れたお茶と

自家製のお新香をお茶うけに、悠々とした会話が続く。

小春日和の縁側にいるようだ。

さらさらと時間が流れていくのがわかる。

 

 

「ロシアで見たマトリョーシカの木地師の仕事は凄かったなあ」

「柿澤さん、ロシアに行かれたことあるんですか?」

「県の産業振興会で。面白そうだったから、申し込んだんだけど、誰も知り合いがいないし、空港の集合場所も聞くのを忘れてね。たいへんだった」

細かいことにこだわらない大らかな性格が

アダになったことを思い出したようで、

バツ悪そうに笑った。

 

 

その旅行で柿澤さんは、

セミョーノフの工場見学に行った際、

熟練の木地師が寸法も測らず、経験と勘だけで、

あっという間に入れ子をつくる完成させる様子に、

度肝を抜かれたぐらいに感動したそうである。

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「誰も興味ないんだもんなあ。すぐに懇親会場に移動だもん。ずっと見ていたかったのに」

「ぼくもセルギエフ・パッサードで見たときに衝撃を受けました。あれは神業ですよ」

「そうそう、神業ね」

「そうです。神業です」

 

とその後、ふたりはロシアの木地師の匠の技を思い出して、

ひとりごちに耽っている。また時間がさらさらと流れ出す。

心地良い時間である。

 

 

 

この悠久とした時間の流れに抱かれているからこそ、

あの純粋無垢な少女こけしが生まれてくるのだろうと、

ふと思う。

都会では、まず生まれることはない。

なぜかそれだけは確信があった。

 

(店主YUZOO)

1月 12, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)

2014年1月 9日 (木)

純情こけし東北めぐり旅(1)

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早いもので21世紀になって、

すでに14年の年月が流れている。

 

ついこの間、

蛇の年賀状の図案で頭を悩ましていたと思ったら、

もう馬について考えなければならない。

この調子だと一年中、

干支について思いを巡らしていないと、

正月の挨拶さえ覚束なくなるにちがいない。

困ったものである。

 

「木の香」で恒例の新春行事である、

東北こけし展の打ち合わせに、

山形、宮城、福島をまわったのは、いつだっただろうと

手帳を見返したら、

もう3か月前の出来事になっている。

  

その旅の途中で私は、

こけしの工人さんの人柄や作業場の雰囲気を紹介して、

少しでも東北の生活を身近に感じてもらいたいと

強く心に抱いていたのに、この体たらく。

  

穴があったら入りたい心境だが、

寝正月にゆえに身体を動かすのも一苦労。

炬燵を終の棲家と、開き直る以外、術はないのである。

  

10月初旬、稲刈りが終わり、稲穂が束ねられ、

東北の山々は広葉樹が色づき始めた頃である。

鮮やかな赤や黄色の葉は、遠く山頂付近に見えている。

  

実を言うと、こけし工人さんの工房やお店を巡るのは、

私自身は初めてで、期待で胸が躍る反面、

商売っ気が出てしまい空回りするのではないか

という不安もあった。

  

伝統こけしについては、

マトリョーシカほどの知識は持ち合わせていない。

  

目の前に一体のこけしを差し出されても、

それが東北こけし11系統のどれに属するのかさえ、

判断がつきかねるのである。

  

職人気質の工人さんに

「そんなことも判らないで、よくこけしを取り扱いたいと言えるものだね」

と言われても、何ひとつ言い返すことができない。

好きな蜂蜜を食べているうちに

壺から頭が抜けなくなった熊と同じである。

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同行するのはこの「東北こけし展」に

1回から主催と運営をしているスタッフのayumiさん。

彼女が培ってきた人間関係を、

ただひとつ拠り所として、

この旅を巡らなければならないのである。

  

仙台から鳴子温泉へ。鳴子町では、

こけしの大きなオブジェがお出迎え。

その後、駅前の小さな通りを過ぎる間も、

様々なこけしのオブジェを目にし、否が応でも、

こけしの国に入国した気分になる。

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鳴子では柿澤是伸さんに会う予定。

ayumi さんの話によると、

柿澤さんは無口だが、こけし制作には

湯水のごとくアイデアが頭に浮かんでくるような人。

いわゆる天才肌の人らしい。

  

私の周りは、類は友を呼ぶという格言どおりで、

日々の生活に追われ、夢も希望もなく、

心の安らぎと称して酒を飲みだすと、

堰をきったかのように饒舌になる人ばかり。

私を含めて、天才肌には程遠い。

  

果たして天才と俗物で会話が成り立つのだろうか。

  

(店主YUZOO)

1月 9, 2014 国内仕入れ | | コメント (0)