クワスのその後
さて、あれからクワスはどうなったのか。
結論を先に言うと、クマが新体操を練習しているような
目を瞠るような劇的な変化はなく、どす黒いまま。
真夏の神田川のようにどんよりとしている。
黒く澱んだ飲み物で美味しいのはコーヒーぐらいだが、
自分でつくった手前、進んで味見をしなければならぬ。
苦虫をつぶした顔で、意を決して一気に飲むと、
少し酸味が弱い気がするものの、
ロシアで飲んだときと、ほぼ同じ味。
初めてつくったにしては、上々の出来栄え。
少し古いが有森裕子の言葉を借りれば、
自分で自分を褒めてやりたい気にさえなる。
しかし何十年とアルコールで毒されてきた私の舌。
味の善悪についての判断は、かなり鈍っているはず。
そこで公平を期するため、何人か試飲してもらったが、
「私、この味、大好き!」
とアキバ風発言をしたのがひとりいただけで、
それ以外は明快なコメントを言わず
「ふうむ」と発しただけである。
日本人の発する「ふうむ」は恐い。
《今までに経験しなかった味覚。結構いけるじゃないの!》
という納得の「ふうむ」と
《今までに経験しなかった味覚。しかし日常的に飲み続けるには、少しきついものがあるね》
という疑問を呈する「ふうむ」のふたつのパターンが、
存在しているからだ。
誰もが私に気を遣ってか、顔色をひとつ変えることない、
山椒魚のような面持ちなので、どちらとも判断がつかねる。
山椒魚は岩場に幽閉されないかぎり、
顔色ひとつ変えないからね。
ただラテン的プラス思考の自分ゆえ、
アキバ風発言をしたのを有効票、
他の発言はすべて白票を投じたと判断し、本議案に対して
私のつくるクワスは美味しいという結論に達したのである。
そして月曜日より、水筒に入れて意気揚々と
会社に持参した次第。
しかも水筒には、野球の全日本ユニフォームを着せて。
何か文句あるかな?
(店主YUZO)
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