若い頃は借金をしても旅に出るべきである。
齢を重ねてからの旅はガイド本に沿った内容になりがちで、
短時間で多くのものを観てやろう的な
詰め込み型のツアーに頼ってしまう傾向にある。
名所旧跡を訪ねることが、旅のすべてではない。
その地に住む人々の息遣い、街の喧騒、空気の濃度、
空の青さを五感に感じることも旅の重要なファクターとなる。
残念ながら若い頃は日本各地を回ったけれども、
海外に行ったのは社会人になってから。
しかもタイに社員旅行というのが初めてである。
若い時の、金は無かったけれども膨大にあった自由時間を、
一度でも海外旅行に注げなかったのかと悔やまれる。
若き日のチェ・ゲバラ。
今やベレー帽をかぶった写真がデザイン化されて
Tシャツの柄になって久しい。
そのゲバラが革命家の道を歩む以前に、
南米をオートバイで縦断し、その出来事を日記を残している。
研究者の間では、
革命思想の萌芽をこの旅行に見出しているようだが、
私は研究者でもコミュニストでもないので、
その辺りの分別はつかない。
ただ無謀とも思える旅の過程で、すべての出来事を
ふたつの眼にしっかりと焼き付けておこうという強い意志と、
金が無くても何とかなるという若さゆえの楽天主義に、
甘酸っぱい嫉妬を感じずにはいられない。
客船に潜り込み密航を企てたり、
筏をつくってアマゾン河をくだったり、
サッカーのコーチをして小銭を稼いだりというエピソードが、
10頁毎に繰り広げられ、さながら映画のワンシーンようである。
さらに医者の卵でもあるゲバラと同行の友アルベルト・グラナードは、
ハンセン病の療養所を訪ね、
劣悪な環境の社会の隅に追いやられた患者に、
医療器具や薬が慢性的に不足したなかで
懸命に治療する医師たちの奮闘に、心を傷め、
鉱山に従事する人々が
低賃金で牛馬のごとく過酷に働かされていることに憤慨し、
マチュピチュクスコといった偉大なる古代文明に思いを馳せる。
「人間というものは、一生のうち九ヶ月の間に、最も高尚な哲学思索から、スープ一皿を求めるさもしい熱情にいたるまで、実にたくさんのことに思いを馳せられるもので、結局のところ全てはお腹の空き具合なのだ」
こんな文章で始まる旅行記って、とても素敵ではないか。
この破天荒で、情熱で咽返る旅日記は、
チェ・ゲバラ『モーターサイクル南米旅行記』(現代企画室)として、
相棒のアルベルト・グラナード『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』(学研)
として、それぞれ翻訳が出版されている。
このふたつの本は一心同体。切り離せない関係にある。
ふたりの友情の絆は、血縁以上に濃い。
旅は友の存在を、さらにかけがえのない高みへと駆り立ててくれる。
(店主YUZO)
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