ユーラシア大陸で酒三昧の本
古本屋を巡っていると、ときどき一瞬脱力してしまうような
題名が眼に飛び込んでくることがある。
そして帯が付いている場合は、
その短かなコピーにさらなる脱力を強いられる。
種村直樹著『ユーラシア大陸 飲み継ぎ紀行』(徳間書店)。
帯には「ヨーロッパ、中国の地酒に酔いしれながら、総鉄道距離17000kmの大列車旅を敢行。酒好き、汽車旅ファン垂涎の1冊!」とある。
ユーラシアの大平原を車窓を肴に飲み続けるのは、
常人ならば馬鹿げていると一笑しかねないが、
酒好き、汽車の旅が好きな輩にとっては、
贅沢この上ない旅と言えよう。
もちろんこの旅の経由地としてロシアも入っている。
これだけの条件が揃っていれば内容が悪いはずがない。
さっそく購入。
ポルトガルのポルトでワインを起点に、へレスのシェリー酒、
フランスのコニャック、ベルギーでビールという具合に、
ポーランド、ベラルーシと続く酩酊汽車の旅。
先日紹介した『酔いどれ列車モスクワ発ペトゥシキ行』
までとはないが、途中体調不良に見舞われながらも、
初心貫徹。
とにかく現地につけば本場の銘柄を
しっかりと五臓六腑に流し込む。
酒呑みの鑑である。
さて気になるのはモスクワの様子。
この本が出版されたのは1996年だから、ソビエト崩壊後、
まだ経済が混乱し、安定しない頃になる。
「ホテルーインツーリストのピザ屋が、米ドル主、ルーブル従のメニューを置いていたのは、ほとんど外国人ばかり利用する店なのだろうと、さほど気にならなかったものの、市内で外国の通貨がおおっぴらに流通しているとは驚いたことだ。ルーブルが気の毒である」
期待したほど興味をひく記述は少ない。
ロシアに限らず、もっと町の人々と交流してくれれば、
旅行記に奥行きが出るのにと悔やまれる。
まあ著者は鉄道専門のルポライターだから仕方ないが。
ただ1992年に開通したウルムチから西安を結ぶ
シルクロード鉄道の記述は面白い。
線路の幅が異なる路線で結ばれているので、
幅に応じて台車交換の作業が入るのである。
その作業の段取りが大陸的というか、
シルクロード的な悠久の時間というか、
千一の夜を越えるかのようである。
約一ヶ月近い酔いどれ旅行の締めくくりとして、
千葉県の酒々井町に降り立つ。
鉄道好きならではの選択。
シブイ。
(店主YUZO)
5月 14, 2012 ブックレビュー | Permalink
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