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2011年11月 8日 (火)

小林和男「1プードの塩」

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今日は本の紹介。

長年NHKでモスクワ支局長を務めた著者が、

ロシアで出会った人々の回想録である。

出会った人々といっても、ゴルバチョフ、ブブカ、ニクーリン、プリセツカヤ

とロシアに精通していなくても、その名は一度は聞いたことがある

著名人が紹介されている。

 

NHKの支局長だから名だたる著名人と交流が持てたのだろうと、

斜めにものを見てしまいがちだが、

そんな簡単に物事が進むわけがない。

お互いの家に友人として招き合う親密な関係になるには、

自身が誠実であるのは当然のこと、

豊富な話題を有している理知的な人柄でないと、

これら著名人と末永く交友するのは難しい。

 

私なんぞでは、著名人を前にしたら3分と経たずに話題が尽き、

ひたすら酒をあおって理性をなくすか、

日本の童謡でも歌って場を有耶無耶にするかがオチである。

 

支局長を務めた時期が84年から95年ということもあって、

ソビエト崩壊からロシア誕生の混迷期が話題の中心となり、

その激動の歴史のなかで運命を翻弄された人、

機運を掴んで登りつめた人などが登場する。

なぜか運命を翻弄された人は政治家や実業家が多く、

芸術家は生活が苦に瀕しても信念を曲げることはない。

古今東西、その気質は共通している。

 

その典型的な例として、以下のエピソードを。

世界的な指揮者でありチェリストでもあるロストロポーヴィチが、

反体制的な作家として迫害され、

便所の同然の掘っ立て小屋に住まざるえなかった

ソルジェニーツィンをかくまったことについての言葉。

「君も知ってのとおり、ソビエト時代には友人を裏切って当局に売り渡し、それによって給料や地位を上げてもらったり、家を割り当ててもらうことができた。高い給料、新しい家は最初のうちは満足かもしれない。しかし、いつかそんな自分の行為を問い返さなければならない時がやってくる。自分が売り渡した友人が亡くなった時、なぜあんなことをしたのかと、自分を許せない瞬間が必ずやってくる。良心に責められるのだ。良心に照らし合わせて、自分の行為は正しかったのだと思えるような生き方をしている人にとって、良心は見方であり、力を与えてくれるものなのだ」

 

この言葉に出会えただけでも、この本は価値がある。

(店主YUZO)

11月 8, 2011 ブックレビュー |

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