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2011年11月10日 (木)

C.ハリソン&k.リーデン著「モスクワの女たち」

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今回も本の紹介。

ソビエト時代、モスクワの女性に子育て、家事、仕事、結婚、

男女平等などについてインタビューした本。

20代~70代までの10人が、それらの問題について語っている。

 

本が刊行されたのは1980年。

ソビエト当局の監視の目をくぐって、

これだけの取材を行ったことは驚嘆に値する仕事内容である。

実際にこの本で登場する女性は、外国人に話す開放感からか、

実に溌剌と自身の生活について、価値観について答えている。

 

彼女たちが語る事柄に、共産主義体制の非効率性や

矛盾を見つけ出して、こんな国だから消滅すべくして消滅したのだ

と、論ずるのは容易い。

たとえば買い物をするにも長蛇の列に並ばなければならないとか、

証明書をひとつ取るのに役所を盥回しにされ何日もかかることに。

ただその視点では、この本が暗示している

根源的な問題点には行き着くことはできないだろう。

 

ソビエトの女性は共働きがほとんどで、

夫婦で稼ぐお金だけでは生活できず

親からの仕送りで何とか遣り繰りしている。

また幼い子供を預ける保育所も充実しておらず、

衛生面など決して良い環境とはいえない施設に

仕方なく面倒をみてもらっている。

もちろん住宅事情も悪く、狭いアパートに

何家族が暮らしていることも別に不思議なことではない。

そして男女平等といっても管理職は男性が中心。

 

彼女たちはそのような厳しい環境のなか、

仕事と家庭を両立させながら、自身の夢である

大学の研究者になりたいとか、考古学を専攻したいといった夢を

必死になって追い続けている。

 

と、ここまで読んだらお気づきかと思うが、

今の日本の状況とほとんど変わりがないのである。

国の体制が違えども、そこで暮らす人々は日々の生活に追われ

子育ての悩み、生活費、住居といった問題で、

どう遣り繰りしていこうかと頭を抱えているのは同じなのだ。

そして社会的には男女平等と謳っていても、

家庭内では、女性が仕事だけでなく、

同時に家事と子育ての重荷を背負わされてしまうのも同じ。

 

ちなみに当時のソビエトは少子化が問題になっている。

彼女たちも、子供はたくさん欲しいが今の収入では無理と

半ば諦めているのも、今の日本と似ているではないか。

 

国家や社会が、すべての国民の幸福を保証する、

もしくは国民は等しく幸福になる権利があると明言したところで、、

崇高な理念と達成までの持続的な実行力が伴わないと、

実現が不可能なのではとさえ思えてしまう。

 

ただこの本で語り口が、まったく異なるのが70才の女性の証言。

夫も兄も兵隊に取られただけでなく、

村は戦争の最前線となって破壊され財産をすべて失い、

靴ひとつ買ってあげられないような極貧生活のなか、

三人の子供を学校に行くまで育てたことを口重く語っていて、

一言一句がずっしりと胸に響き、先を読むのが辛かった。

 

戦争は最愛の人を失わせるだけに留まらず、

衣食住といった基本的な生活さえも破壊し尽くしてしまう。

そこには幸福になる権利という言葉さえ虚しく響く。

(店主YUZO)

 

11月 10, 2011 ブックレビュー |

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