モスクワの憂鬱
いろいろと鬱積しいたものが堰を切って流れ出したのか、
ニコライさんの日本への思いが延々と続く。
「私はもう一度、日本で勉強がしたいのです。
今私がしている仕事は、私が本来やりたい仕事とは正反対のものです。
このまま続くかと思うと、自分が死んでしまったような気分です。
でも死ぬことはいけないことですから、絶対に死は選びませんが。
本当に二人は、良い仕事をしています。
羨ましい。ロシア人が知らないことも、良く調べられていて。
それに比べて私は・・・。私も昔はそういう気持ちでした・・・」
自責の念にかられたかと思うと、私たちを褒め称え、
するとまた自責の念に逆戻りの繰り返し。完全に酒飲んでクダを巻く、
新橋のオッサン化している。
ふとロシア通のチリパシュカさん(実は日本人です)の言葉を思い出した。
ロシアの酒飲みは、大まかにふたつのタイプに分かれるそうである。
一晩中、陽気に騒いで飲み明かすタイプと、
飲むにつれて人生とは何かと考え込んで意気消沈するタイプと。
もしこの説が正しければ、明らかにニコライさんは後者のタイプである。
もちろん前者が運転手になるだろう。
ニコライさんは、どんどん自分の内なる世界に入り込み、
「人生をリセットしたい」とまで言い出し、
運転手は、割り込みする車や故障している車など、
目に付くものすべてに悪態をついている。
世界中で起きている不幸が、この二人に降りかかっているようである。
ドストエフスキーの「罪と罰」をちゃんと読んでおけばよかったと、
後悔する私であった。
(つづく)
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