ニコライさんの思い
帰りは小雨が降り出し、
モスクワ市内でむかう道路は、いつものように大渋滞。
しかも金曜日ということもあって、渋滞が解消する気配もない。
午後7時をまわり、車内にぴりぴりとした空気が漂う。
KGBまがいの運転手が
「今日、呑みに行く予定なのに、なんてぇ、事だ
=たぶんそう言っている」
と突然大声を出したのだ。
昼間、ニコライさんと私がウォッカを飲んでいるのを横目で見ていたときから、
今日の飲み会を楽しみにしていたのだろう。
だいたい2リットルも鯨飲する大酒呑みである。
他人が美味しそうに酒を飲むのを見て、黙って指を咥えているわけがない。
胃袋といわず、肝臓といわず、アルコールを欲して我慢できない様子で、
苛立っているのが、後部座席からでもわかる。
「だいたい金曜日に遠出して、ボゴロツカヤなんて片田舎に行くから、
こんな目に合うんだ
=たぶんそう言っている」
と大きな独り言をこれ見よがしに言っては、助手席のニコライさんを睨みつける。
この剣幕に萎縮してしまったのがニコライさんは、
下を向いたまま、ぶつぶつと呟き、背中は悲愴感が溢れ出ている。
「今日、丸一日お付き合いしてくれてありがとうございます。そう運転手に伝えてください」と私が言うと、ニコライさんがこちらを振り向いた。
「そういうことではないのです。
それより、あなた方の仕事を手伝って、
自分のやるべきことを見失っていたことに気がつきました」
「????」
「あなた方はロシア語もわからないのに、
ロシアの良い文化を日本に伝えようとしている。
日本語を勉強したのに、私は日本の良い文化を ロシアに伝えようとしない。
まったく恥ずかしいです」
あれ!?運転手に小言を言われ続けて、落ち込んでいたのではないの?
たかなしさんと私は顔を見合わせた。
ポイントがわからない・・・・。
(つづく)

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