ニコライさんの重大発言
その日の夕方、今回仕入れをサポートしてくれるニコライさんと打ち合わせ。ニコライさんはモスクワ大学で日本語を専攻していただけに、日本語は堪能で、また日本文化にも造詣が深い。現在の日系企業で働く前は、日本のアニメの台詞を訳していたという。
日本語に興味を持ったきっかけは、書道の墨の匂いというのだから、人間何が動機になるのかわからないものだ。
ロシアについてから、当然のことながらロシア語に苛まれ続けていた私たちには、ニコライさんの日本語はひと安心。思わず顔もほころぶ。
まだ学生のようなあどけない顔しているニコライさんは、まだ見ぬマトリョーシカを探し求めてモスクワまで、はるばるやって来たことに疑心暗鬼で、
「マトリョーシカみたいなものは日本人が本気でつくったら、ロシアより良いものができるでしょう」とこちらの本意がなかなか伝わらない。
しかし日本から希望を出していたおもちゃ博物館とマトリョーシカ工場の見学、ニコライバさんへのすべて連絡は済ませていて、さらに私たちが興味ありそうと思われるものを、いろいろとピックアップしていてくれている。実に綿密なスケジュール。思わず感動の声を上げてしまう。
だいたいニコライさんは、日本で一番好きな場所は、神田の古本屋街という人柄なのだ。あの日本語と古書に囲まれた空間ならば、何時間でも過ごせるというのだから、私たちがマトリョーシカを追い求める気持ちに、何か心通じるものがあるのだろうと思う。この心遣い。爪の垢でも煎じて、○○さんに飲ませてあげたい。
「けれどもわざわざ日本から来てまで探す、マトリョーシカの魅力が私にはわからない」と少し困り顔のニコライさん。いろいろと写真を見せてみるが、反応は今ひとつ。
「実際に作家さんの素晴らしい作品を眼にしたらわかります!」
などと負け惜しみのように言ってみるものの、やがてこの言葉がニコライさんの眠っていた心に火をつけることになる……。
その事実をニコライさんも私たちも未だ知らない。
「そうそう、明日は弊社副社長と昼食会があります。ぜひ美味しいロシア料理を堪能してください」
「?????、な、な、なっ、副社長と昼食会!?」
「遠慮はご無用ですから、御好きな物を食べてくださいね」
ニコライさんは、にこやかに微笑む。
一般的な日本人ならば「きいてないよ~!」とウラ拳で突っ込むところだけれど、ロシアの大手企業の副社長というイメージが先行して、ウラ拳どころか掌に大粒の汗をかくのが精一杯の私だった。
(つづく)

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