ロシア版「カンブリア宮殿」
昼食会が気になって一睡もできなかった小心者の私は(嘘)、早めにホテルの朝食を食べに行く。
バイキング形式の朝食なのだがディナーかと思うぐらい種類は豊富で、
チョウザメのムニエルやら、チョコレートの噴水やら、豚の足が丸ごとのハムやらが、
市場のように並んでいる。
未だに日本人の多くは思っているかもしれないが、
ロシアには物が無いというのは遠い昔の話なのである。
そして食材のボリュームに圧倒されることなく、パフェをふたつ満足そうに食べるおばはんがいたり、ホットケーキを積み上げてご満悦のおっさんがいたりする。
ロシア人の胃袋に感服するのみで、私は果物やらサラダといった雀の餌をちまちま食べている。
あのくらいの食欲がないと、世界を渡り歩けないのだよねと、
たかなしさんと溜め息をつきながら。
10時。待ち合わせ時刻の15分前に来た、
ミスター綿密スケジュール・ニコライさんに案内されて会社へ。
そして到着するや、すぐ副社長がいる事務所へ向かう。
「私よりも日本語が上手ですから、そんな緊張しないでもいいですよ」
と私の心を見透かしているかのようにニコライさん。
でも日本語話せても、共通の話題がないのだよ。
だいたい、ぬるま湯のなかで生きてきた人間なのだから、
ロシア経済どころか日本の経済すらわからぬし、詩吟のひとつでも吟じて相手を喜ばすわけでもない。
高尚な話自体が無理というものだ。
事務所で待つこと5分、いよいよ副社長が登場。2mはあろうかと思う背丈と、
恰幅の良さは、いかにも経営者然としている。そしてブラシのような髭。
「お会いできて光栄です」とまずは握手。
「ロシアは初めてですか」
「今回で2回目です。先回は4月に来ました」
「そうですか。社長からは、あなた方のビジネスをサポートするように言われているのですが、どのようなビジネスをされているのでしょうか?」
「マトリョーシカを中心に、ロシアの伝統的な木工芸品を扱っています。このビジネスを始めて3年目なので、取り扱いは少ないのですが」
ニコライさんが言っていたとおり日本語が上手で、しかもすごく親しみやすい声なので、先ほどの緊張は、すっと抜けていった感じである。
「毎回、どのくらい仕入れられるのですか。一度にコンテナ何個ぐらいでしょうか?」
「恥ずかしいですが、コンテナどころか郵便小包で5,6個程度です」
「恥じることはありません。どんな商売でも初めから大きいものは無いですから。それにロシアの工芸品を扱うのは、実にユニークで良い発想です。必ず大きなビジネスになります。そうなるように、いくらでもサポートしますから、気兼ねなくおっしゃってください」
副社長に励まされると、本当に「木の香」が発展していく気持ちになるから不思議だ。
この人が持っている優しいオーラが、周りの空気を穏やかにするのだろう。
この日系企業は、ソビエト時代に現会長が単身ロシアに渡り、何十年という時を経て、築きあげたのだという。
その間にソビエト崩壊があり、経済危機があり、またロシアらしく猫の目のように変化する法律や関税がありと、決して平坦な道ではなかった。
そして成功した現在、自分の経験が生かせるのならば、
ロシアとビジネスをしようとする会社や個人を、営利に関係なくサポートし、それが日露友好に結びつけばと望んでいる。
近くて遠い国。というより、近いけれども霧に霞んで見えにくい国ロシア。
その霧を晴らそうと、地道に友好の種を蒔く人がいる。
……と感動していたら、お腹が鳴った。凡人は食欲だけは正直だから困る。
(つづく)

コメント