パベルさんの独創性
次に会ったのはパベルさん夫婦。「木の香」オリジナルのマトリョーシカを制作してもらうのが、この工房。「ナルマイナ=問題ない」が口癖の旦那さんとしっかり者の奥さんというロシア版夫婦善哉といったおふたり。
会うやいなや、10年来の友人のようにハグしてくる旦那さんと店の奥からていねいな挨拶をおくる奥さんという期待とおりの反応で、思わずこちらも苦笑いしてしまう。
パベルさんのマトリョーシカは、精細さや凛とした気品はないけれども、奇抜なアイデアだけは他の追随を許さない。
早速新作といって見せてくれたのは、海亀の背中が開いて、中に卵が3個入っているというもの。しかも海亀が花を咥えているのだが、その位置が口のはるか後方で、まるで頬に花が刺さっているように見えてしまう。「卵を紛失したら、そのまま海亀の小物入れになるんだよ」と誇らしげに自慢の逸品を説明してくれる。
こんな不気味な海亀の背中に何をいれるんだよと、突っ込みを入れたくもなるが、パベルさんは満面の笑みで、買っていけ、買っていけとその海亀をこちらに押し付ける。思わず、その押しの強さに負けてしまう。
しかし次に紹介された新作は、さらにすごいもの。
日本は来年は年だから、牛をモチーフにした作品はあるかきくと、待っていましたとばかりに、奥から取り出してきたのは、4本足で立っている赤い牛。この足がついているマトリョーシカは他には見ないねと、その独創性に感心していると、赤い牛のお腹から出てきたのは、なんとお婆ちゃん!さらにお婆ちゃんからは犬!
「この牛は人喰い牛かっ!!」と突っ込みを入れるが、またもやパベルさんの得意技、満面の笑み攻撃を受け、あっさりと仕入れてしまう。しかし何を題材にこのようなマトリョーシカをつくるのか、パベルさんの発想の着眼点が、さっぱりわからない。
パベルさんへのお土産は、弁慶が描かれている和凧のミニチュア。お土産を手にした途端、パベルさんの眼がきらりと光ったのを見逃さなかった。次に会うときは、弁慶のマトリョーシカをつくってくるにちがいない。(弁慶のなかから牛若丸が出てくるのか?)
以前にも日本のこけしと中国の人形を混ぜ合わした風変わりなマトリョーシカをつくっていた実績もあるし。パベルさんの創作意欲は楽観視はできない。
マトリョーシカつくりにルールはないけれども、牛からお婆ちゃんが出てくるのはイエローカードものだと思うのだが。
(つづく)
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